×長編 | ナノ
「最近面白いくらい腑抜けてるね」
え、俺? 一瞬にして背中を伝った冷や汗。 けど直ぐに御幸、と固有名詞が付け加えられ、ああ、と俺は納得した返事を返した。 て言うか亮さん、何で俺に言うんスか。 無駄に冷汗掻いた。
「……当分無理じゃないっスか」 「練習に手が付かなくなるほどの何かがあったわけ?」
グローブを嵌めた手を腰に当てながら、意図の読みづらい目がこちらを向く。 ノック交代の空時間、タオルで顔を覆いながら、僅かな視界の隙間からブルペンを見た。 傍目からしたら気付かれねーと思ってんだろうけど、俺や先輩らからしたらバレバレなんだよ。 届くわけのない言葉を、呟いた。
「まあ、そんなとこっスかね」 「青春だなぁ」 「何歳の発言っスか」 「……御幸って不器用だよね」 「へ?」 「なんでもない振りするの得意な癖に、肝心な所で出来てない」
ホント不器用。 最後にもう一度呟いて、亮さんはノックを受けてた弟さんと交代するためにグラウンドへと行ってしまった。 その様子を呆然と見つめる俺。 だけどすぐに思い立って俺も亮さんの後を追って、戻ろうと歩き始めた。
不器用。 確かにな。
少し距離があるここから、ブルペンをもう一度見るために振り返った。 普段どおりにキャッチャーミット構えてるはずなのにどこか違ってて、誰にも聞こえねーくらい小せぇ舌打ち、一つ。
何やってんだよ、お前。
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