×長編 | ナノ
気にすんなとか、いくらでも言い様はあったくせに肝心なことになると言い出せなかった。 第三者が口を挟める問題でもねーだろ、と確信したからと言うのもあるけど。 多分一番は、俺と接するときの二人はまるで何もなかったかのような素振りを見せていたから。 たまに忘れそうになる。 もしかしたらコイツらが別れたってのは、冗談で。 今も俺を騙しているだけで、その関係は続いてるんじゃねーかって。
それでも時折、現実を突きつけられる。 その二人が全くもって視線を合わそうとしないことも、二人きりになることもなくぎくしゃくした関係を続けていること。
正直、歯痒かった。
「くらもちー」 「おい、倉持」
やべえって、何で部外者のはずの俺がひやりとしなきゃなんねーんだよ。 重なった声はそのどちらもが俺を呼ぶもので、それを発した男女はまるで事前に打ち合わせでもしたかのようにその顔を強張らせた。 同じ動作。 いつもならからかうネタになるはずなのに。
あー、だから、歯痒いつってんだよ。
内心舌打ちを一つ、なんだよとさして気にも留めない様子で答えた。 どちらか一人に言うわけでもなく、漠然としたそれに。 二人はまた、困惑したように黙り込んでいた。
「……わたし、そういや次の時間の教科書忘れたんだった」 「あっそ」 「隣のクラス、行ってこよー」
逃げるようにして俺たちに背を向けた名前の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、不器用に嘘付く奴だな、とも考えた。 その横では未だ沈黙に徹していたはずの御幸が、同じ方向を見つめている。
何度言わせるんだよ。
「歯痒いっての」 「はぁ?」 「……そんな太陽見るみたいに目細めてんなよ」 「俺お前嫌い」 「ヒャハッ、ガキかよ」
黒縁の似合わねー眼鏡を指の腹で押えながら、一冊、ノートを差し出す御幸を嘲笑って。 悔しいとか、そう思うんだったらめんどくせーから元に戻れよ。 かすかな願いがそこにあったことは、自分でもよく分からない。
「何だよこれ」 「名前に借りっぱなしだったんだよ。お前から返しといてくんねー?」 「何で俺?」 「察せよそれくらい」 「あーめんどくせー」
だから言ってやりてーんだっての。
(意地張るのも大概にしろって。特に男の方)
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