×長編 | ナノ



 風邪で倒れたらしい。
 月曜の朝、御幸が朝会って開口一番にその情報をわたしに伝えた。で、どうしろと。て言うか今の時期に風邪? 相当なバカじゃないのそれ。そう言えばああ、違いねぇとケタケタ笑いやがった。……で、どうしろと。

「昨日熱中症っぽくてな、途中降板したんだけど。どうやら熱中症だけじゃなかったみてーで」
「へぇ」
「熱酷くてよ、点滴打つのと念のために病院に一日入院だと」
「バカじゃないの」
「言うなって、あいつ精神的にも凹んでたみてーだぜ」
「何で」
「さっさと返事寄越さないし、昨日の試合にも応援に来なかったし」
「……」
「ま、練習試合だからそこまで期待すんのもどうかと俺は思うけどな」

 ずきりと心臓が痛くなった。どうしてそこまで。わたしは降谷をそんなにさせるまでの存在なのだろうか。昨日の試合には、行こうと思ってた。けど、肝心の場所を聞きそびれてとりあえず気分もそこそこ乗らなかったし見送った、のに。軽はずみな態度が降谷をどんどん追い詰めているのだろうかと思うと良心が痛んだ。

「あのさ、わたしこういうの初めてだからどうしたら良いかよく分かんないんだけど」
「そりゃ降谷もだろ」
「そうなの?」
「知るか。本人に聞けよ」
「自分の気持ち、伝えるのって難しいね」
「んなこと伝えてから言え。病院先が知りてーなら教えてやるから」

 やけに世話好きっぽい発言に笑えた。いつからアンタそんな良い人になったの、と苦笑気味に言えばあいつがさっさと復活してくんねーとこちらとら問題ありまくりなんだよ、と返してきた。確かに。後から知った話ではあるけど、降谷はどうも青道のエースになるかもしれない選手らしい。普段はそう見えないのに。そんなにすごい人なのかと目を疑ったけど。今その彼が、わたしのせいで。

「わたしのせいで」
「だー! めんどくせーなテメーは! 良いからさっさと病院行け!」
「頭の?」
「降谷のとこ行けって言ってんだよ!」

 そうして、早口に捲くし立てた病院名と大まかな場所をわたしはなんだかんだ言ってちゃんと記憶した。教科書類は置いて帰ってるから仕度にはそれほど時間は掛からない。まもなく一時間目が始まるところだった。週四日ある数学の一番嫌な時間。月曜朝初っ端。サボろうサボろう思っててちゃんと出席していたが。

「御幸ー」
「なんだよ、さっさと行けよ」
「ノートよろしく」
「……あー聞こえねー」
「それと、ありがと」
「……」
「それも聞こえない?」

 知らねー、と愛想無く彼が答えたのを最後にわたしは鞄を持って教室を飛び出した。笑いそうだけど我慢。すれ違った八草がわたしの名を呼び、どこ行くんだ!と大声を挙げていたが無視した。何か、もう。どうでもいいや。
 とりあえず、彼に会いたい。