7、朝未き
ふいに頬の下が突っ張るような、引き攣るような感触がして、意識が呼び戻された。
「紫苑、乗ってる」
眠そうなネズミの声がして、僕は彼の髪の毛を敷いていた事に気付いた。僕が頭を上げると、ネズミはくるりと寝返りをうち、絹糸が流れるようにネズミの髪が行ってしまった。
暗がりに裸の肩が見えている。僕が刻んだ縫合が白く浮いている。一昨日のキスの痕跡が見当たらないのは、鬱血に夜目が効かないせいだけではなく、本当に消えてしまったからだろう。
僕が愛した分だけ、ネズミが感じた分だけ、蓄積されていけばいいのに。
でもそうしたら、ネズミの身体は余すところなく、朱く染まってしまう。
僕は自分の欲深さに小さく笑った。
ネズミの静かな寝息が聞こえてくる。うなされてもいない。僕とセックスした夜は、悪夢に捕われる事がないように感じられた。それが僕の為せる力によるものでなく、単なる疲労だとしても嬉しい。
僕はネズミの襟足に額を寄せて、おやすみと囁いた。
朝はまだ向こうにある。
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