んじゃ、俺はこれで失礼しまさァ、と言って公務に戻った沖田総悟の背中を見送って、これから私の部屋となる場所のふすまを開ける。背の低い机と座椅子、箪笥と姿見が申し訳程度に置かれたシンプルなその和室は、とても奇麗にされていた。その部屋の中心に、山崎さんが持ってきておいてくれたであろう、私の、シールをべたべたと貼りたくった真っ赤なスーツケースがひとつあった。

午後になるまで、まだ時間はあった。とりあえず、まずは荷物の整理もかねて部屋の勝手を知ろうと、そのスーツケースを開けることにした。中から、下着類と部屋着用の白縹色の木綿の浴衣と、緋色の帯を出して畳み直し、箪笥にしまった。愛用の参考書たちは机の上に積み、試しに引き出しを開けてみると、なかなか上等な書きもの一式が揃っていて驚いた。奥の押入れの上の段には、淡紅藤色の布団が一式、用意されていた。下の段には、簡易な冷蔵庫が一台あって、中にはミネラルウォーターのペットボトルが3本あった。

「……なんか、ホテルみたい!」

あまりの準備の良さに、頬が緩んだ。さて、午後からがんばりましょうかね、なんて思っちゃった私も、つくづく単純なヤツだ。

付箋とマーカーでいっぱいの参考書を広げて、しばらく夢中で机に向っていたら、時間はすぐに過ぎて行ったみたいで、失礼します、なまえさんはいらっしゃいますか、と穏やかな女性の声が戸の向こうから聞こえた。はーい、と返事をして開くと、にこにこと優しい笑顔を浮かべる割烹着に身を包んだ中年女性がいた。

「はじめまして、前山といいます」
「あ、えっと、なまえです、よろしくお願いします」

はい、よろしくね、じゃあ早速だけど洗濯物を取り込むとこからやろうかな、一緒に来てくれる?、はい、じゃあお着物が汚れちゃうといけないからこれ上から着ておくといいよ。

受け取ったエプロンをかけながら、前山さんのあとを追って干場に行き彼女にならって大量の隊服を取り込む。それから浴場の清掃。もちろん、沖田総悟に言われた通り、しっかり清掃中の札を立て掛けておいた。それが終われば今度は夕飯の仕込み。すまいるでキッチンをやっていたからか、手際がいいねぇ、と褒められた。やだ嬉しい!

さて、あとは夕飯の時間になれば勝手に隊士たちがご飯装って行くから、その間にアイロンかけてしまおうか。終わったら食器を洗って、乾燥機に入れたら今日の仕事はおしまい。だいたい9時頃になるわね。

その前山さんの言葉通り、ふたりで大量のワイシャツにアイロンをかけて、隊服をハンガーにかけて、タグにかかれた名前に従って、各隊ごとに宿舎まで運んで、やっと終った、ともといた部屋に戻ってきたときには9時を少しまわっていた。

それから食堂に戻って、これまた大量の使用済みの食器とマヨネーズの空き容器を……ん?

「前山さん、今日のメニューにマヨネーズ使いましたっけ?」
「ああ、それは副長さんね」

彼は物凄くマヨラーなの、と呆れたように笑ってますが、1食で1本使いきるって摂取量尋常じゃないですよ。健康診断とか引っ掛からないんですか。コレステロール値とか大変なことになってそう。

眉をしかめる私に、心配しなくてもストックはあるから暫くは切れることないと思うわ、って微笑んでくれました。私がした心配はそこじゃないけど。

食器を全部乾燥機にぶちこんだところで、今日の仕事はやっと終ったようだった。人数がいれば、もっとはやく終わるんだろうな、なんて思いながら、お疲れ様です、また明日からもお願いしますね、おやすみなさい、と挨拶をした私に、前山さんはにこやかに死刑宣告をくだした。

「お願いするのは私の方よ、明日からお願いね。ひとりだけど頑張ってね」

I DIDN'T GET THE MEMO!
(聞いてない!)

「私もね、あなたへの引き継ぎで辞めるのよ」
「え、うそ、え、え。」
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