眠らない街、かぶき町。
ネオンが照らす歓楽街の一画、そこに私のバイト先はあった。

「なまえちゃーん?三番テーブルにドンペリお願いねー?」

「はい、今行きます!」

"スナックすまいる"、まぁ言ってしまえばキャバクラ。そこで私は、主に裏の仕事をしていた。あ、裏って別に変な意味じゃないからね。接客のことを表っていうから、厨房とかのを裏っていうだけだかんね。

注文があったテーブルにドンペリを持って行けば、同い年のお妙ちゃんが接客についていた。お相手は、ここじゃお馴染み真選組のおふたり。頬っぺたに紅葉マークをつけながらお妙ちゃんの隣で豪快に笑う局長の近藤さんと、煙草を片手に呆れた様子で酒をたしなむ副長の土方さん。うちにとっちゃ大金を落としてくれる大切なお客さまだ。紅葉マークついてるけど。

お待たせしました、とドンペリをテーブルに置き、空いた食器をトレーに載せて厨房へ戻ろうとしたところ、なぜかお妙ちゃんに引き止められた。

「ねぇ、なまえちゃんって、今ひとり暮らしだったわよね?」
「え?そうだけど?」

今更そんなことどうしたの?と首を傾げると、お妙ちゃんはにっこりと微笑んだ。

「じゃあ、家事全般出来るわよね?」
「んー、まぁ人並みには」

「ご兄弟はみんな男だったって?」
「ははっ、おかげさまで女子力皆無で育ってきちゃった」

「……どうかしら?近藤さん」

私から近藤さんに視線を移したお妙ちゃん。近藤さんも、にっこり笑いながら、まぁ悪くないが本人次第だな、と返した。お隣の土方さんは眉間に皺を寄せ始めちゃってるけど。え、なんなの。話読めないぞ。

クエスチョンマークを浮かべながら、そろそろ厨房に戻る旨を切り出そうとしたところ、近藤さんが私の方を向いて、爆弾を投下してくれた。

「どうだ、君さえよければウチで働かないか?」
「WHAT?」

え、え、なに言ってんだこの人。え、あれ?真選組って女人禁制じゃなかったっけ?っていうか、

「ワタシ、ヒト、斬レマセーン」
「え、なんでカタコト?」

え、って私の台詞ですよ近藤さーん。なぜ私を真選組に勧誘?

「ごめんなさいね、本当は私に声がかかったんだけど、さすがに新ちゃんをウチひとりに残すのはちょっとね。それにゴリラと四六時中顔を合わす羽目になるだなんて死んでも嫌だったから。」

「嫌だなお妙さん、そんな照れ隠しせんでも」

「嫌ね近藤さん、本気で嫌がってるのよ」

そんな穏やかじゃない会話の横で、ふぅー、と煙を吐き出した土方さんが、未だに話が読めない私に補足説明してくれた。

「ッたく、大事なこと抜かしやがって……。別に刀を持てと言ってる訳じゃねェよ。今ウチの女中が何人か抜けちまってな。急遽探すことになったんだが、知っての通り世間では真選組の評判はすこぶる悪い。なかなか集まる気配がねェから、近藤さんがこの女を指名しに来たんだが、」

「ああ、それで全力で拒否ったお妙ちゃんが私にその役目を擦り付けようと。」

「まァ、そんなもんだ。すまねェな、巻き込んじまって」

いくら男に囲まれて育ったっつっても、真選組のゴロツキに囲まるのとは訳が違う。断ってくれても構わねェ、と土方さんは言ってくれた。ありがたい。是非ともお断りさせて頂こう、と口を開こうとしたのだが。

「ねぇなまえちゃん……女学校に通うためのお金を為に、割りのいいこのバイトを始めたのよね?」

「……まぁ、否定しない。」

「だったらどうかしら?近藤さん、今の3倍は出すって言ってくれてるけど」

「いやでも、真選組の屯所ってアパートから遠いし……」

「だったら心配ない!部屋は用意しておこう!」

「いやでも、アパートの契約がまだ終わってないし……」

「あら、泊まり込みOKで高給だなんてとても待遇がいいじゃない。こんな有料物件なかなか無いわよ」

「頼むよ、人が集まるまでの臨時でもいいからさ!ホントに人が居なくて困ってるんだよ〜」

なんだこのごり押しは。つか本人さえよければの話じゃなかったのかよ。私の意見シカトかよ。お妙ちゃんは私に押し付けようと(ドス黒いオーラを纏いながら)必死だし、近藤さんも人が必要で必死だし。

このままじゃ押しに負けてしまう……!そう思って、土方さんにSOSの意味も込めた視線を送った。

のだが。

「……。」

「え、待って待って!何で目ぇ逸らすの!」

「……。」

「黙ってないでなにか言ってよ!!」

本当にお願い。300円あげるから。トレーをひとまずテーブルに置いて、土方さんの肩を全力で揺さぶる。返事がない。ただの屍のようだ。

「……。」

「突っ込めよ!つかフォロ方十四フォローの異名をもってるんじゃなかったの?フォローの副長じゃなかったの?断ってくれてもいいって言ってくれたじゃん!」

「……すまねェ、やっぱり頼まれてくれないか。」

「……まじすか」

どうやら鬼の副長も、(物理的な)戦闘力未知数のキャバ嬢と必死に懇願する上司には勝てないらしい。

TELL ME THAT IT'S NOT TRUE
(嘘だと言って)

こうして私の真選組行きが決まった。
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