「おーい起きろー働けー」
「……んぅ?」

朝が近づくにつれて徐々に浅くなっていく眠りの中。目を閉じたまま、少しずつ脳を起こしていると、カチャ、と何やら不穏な音が聞こえた。寝惚けた脳味噌でパニックになっていると、頭上からやけに気怠げな声が降ってきたので、そぉーっとまだ重い瞼を上げれば、明るい栗色の髪の隙間から瞳を覗かせたヤツがいた。

「……おはようございます沖田総悟。」
「はいおはようみょうじなまえ。昨晩はよく眠れたかィ。」
「ええ、お陰さまで。……って、」

寝起きの掠れ気味の声で挨拶すれば、普通に返ってきた。おいおい。さも当然のような顔でいるがね沖田総悟。

「私の目の前にある筒は…なんなんですかねぇ、コレ」
「見りゃわかるだろィ。バズーカでさァ。」
「私はなんでバズーカを向けられているんでしょう」
「優しい優しい総悟様が眠気覚ましてやろうかと思ったんでィ」
「むしろ永遠に眠らせる気だよね!フザケンナ!」

ツッコミの為に張った声が寝起きの頭にガンガン響く。あー、幸先が不安すぎる!どこの世界に女の子をバズーカで起こすヤツがあるか。

「こんにゃろくらえ!」
「ウガァァッ」

とりあえず全力の勢いでバズーカを押し返せば、スコープがヤツの右目に食い込んだらしい。へっ、ザマミロ。つかこの至近距離でなんでスコープ覗くんだ馬鹿か。や、馬鹿だ。

目がァ、目がァァア!なんてどこかで聞いたことのあるフレーズを叫びながらのたうち回る沖田総悟をげしげしと蹴って部屋の外へ転がす。だって着替えたいんだもん。

とんっ、と勢いよく襖を閉めて、素早く寝間着から浴衣に着替える。髪を適当に結ってフェイスタオルと化粧水だけ持って、洗面所へ向かうため、再び襖を開ければ、もうそこに沖田総悟の姿はなかった。なんだったんだヤツは。おかげで最高に寝覚めが悪い!

遠くに朝稽古に励む隊士たちの声を聞きながら、柔らかな金色が降り注ぐ廊下を進む私は、酷い顔をしていたのだろう。角を曲がった先でたまたま出会った土方さんが、徹夜明けの疲れきった顔をさらにげっそりさせながら、酷ぇ面、と呟いたのを私は聞き逃がさなかった。

「女性に対して開口一番にそれは酷いんじゃないですか。っていうか今のあなたに言われたくないです。あ、そういえばおはようございます。」
「悪ィ悪ィ。大方総悟にちょっかいでもかけられたんだろ。はいおはよう。」
「えっ、何で知ってるのエスパータイプ?」
「ノーマルタイプだ。アイツだって身分剥ぎ取っちまえばただの18のガキだ。女といえ同い年のヤツが来てテンション上がってちょっかいかけに行くだろうってな。」
「彼は絶対あくタイプ」
「違ェねぇ。あとあれな、性格はさみしがりかやんちゃ」
「ええ、なんで」
「攻撃力あっても防御か特防はそうでもねェ」
「へぇ」
「Sは打たれ弱いんだと」
「ああ、そういやオーバーなくらいのたうち回ってました」
「いや何で?」
「バズーカ向けてきたんで全力で押し返したらスコープが食い込んだみたいで」
「あぁ…自業自得だな」

弁天堂派とは聞いていたけど、ちょっとマニアックな話が通じるほどとは思ってなかったから、意外な発見。そんな会話をしていたら、洗面所まではあっという間だった。引き戸を開いたその向こうは、稽古中だから当たり前なのだが、誰もいない。私と土方さんは、ひとつ空けて、並んで顔を洗った。出し始めの水がひどく冷たかったので、ぬるくなるまで暫く出しっぱなしにしていたら、まぁ、と土方さんが口を開いた。

「あいつなりの気遣いなんじゃね」
「え?」
「お前、昨日他の隊士でいっぱいですぐには顔洗えなかったろ」

ああ、それで稽古中の誰もいない時間に身支度できるように起こしにきてくれたのか、と、土方さんに気付かされてはじめてわかった。

THE EARLY BIRD CATCHES A WORM
(早起きは三文の徳)

「ひどく分かりにくい気遣いですね」
「まぁなんにしろ気は抜くなよ。お前の部屋に侵入してんだからな」
「大丈夫です。ヤツからもらった鍵あるんで」
「じゃあなんでアイツ入ってきてんだよ」
「そりゃスペアでも持って……て、あ"ァァァ!!」
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