呑むのやめたら、と声をかければ、カウンターに突っ伏したその男から、うるせぇ、と一言返ってきた。のぞく耳は真っ赤になっていて、ああもう完全にコイツ潰れてる。

サビ残帰り、この時間でも開いてそうな居酒屋はどこかなと歩いて、たまたま目についた屋台の暖簾をくぐったところ、銀色の毛玉がぶっ倒れているのを見つけてしまった。顔見知りな手前、放って置くこともできず、声をかけたところ、冒頭に戻る。

「何、なんかあったの?」
「お前にゃ関係ねェよ。」
「いいじゃない、話聞くよ。なんでもぶちまけちゃいな。」
「お前ェにぶちまけるくれェなら便所にぶちまけらァ。」

ふらふらと起き上ったと思えば、たいしょーう、もーういっぽーん、と間延びした声でお猪口を突き上げた。旦那、もうやめときな、と大将が諭すも、この酔っぱらいはまるで聞かない。

はぁ、とひとつ溜息を吐いて、財布から諭吉を二枚、カウンターに出し、その男を担いだ。

「大将、それで足りなかったら万事屋に。」
「はいよ。」
「はぁ?なに勝手なこと言ってんだよ、おい大将、それはこの女に、」
「あんたが呑んだくれた分でしょ。何さらっと私に奢らせようとしてんのよ。」

いい加減もここまでくると飽きれる。ありがとうね、という声に見送られながら暖簾をくぐった。ふと空を見上げると、うっすらと星が見えた。壮大な宇宙の輝きも、ネオンが蔓延る地上には届かないらしい。

その体躯に腕を回し、ずりずりと引き摺りながら、万事屋へ足を進めた。神楽ちゃんはもう寝てる頃なのかな。起きてたら、目一杯怒られればいいのに。



161012
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