わかっていたはずだった。
その上で俺は、つい手を伸ばしてしまってたんだ。

言うなれば君の存在は月だ。きらきらと夜空の真ん中に君臨するその姿はとても美しかった。月というものはとても気分屋で、完璧な姿で現れる日もあれば、すっかり静寂に隠れてしまう日もある。それでも、その凛とした姿は、ネオンごときに掻き消される星共なんざ比じゃない。ただ静かに、そこで太陽の光を反射していた。

その太陽に、俺は太陽にになりたかったわけじゃなかった。ちがうな、俺は太陽になれなかったんだ。

君はいつも輝いていた、それは太陽の光を反射していたから。太陽は、君がいつも見つめていた彼は、とても手の届かないところにいた。

月と太陽は決して交わることはない。あるとしても、それはどちらかがもう一方を喰らってしまう。一緒に輝くことは出来ない。そういう運命。

君と彼はとても幸せそうだった。愛し合い慈しみ合うその姿は美しかったし、どこか神秘的だった。もしかしたら、ふたりは本当に人間なんかじゃなくて、月と太陽の化身なんじゃないかと思うくらいに。

しかしそんな幸せも刹那のことだった。

太陽を見失った君はとても痛々しかった。月のように美しかった、あのときみたいに笑ってほしくて、俺は必死に手を伸ばした。伸ばした両手が君を抱き締めることが出来なくても、ただ笑ってほしくて。

友達だから、なんて都合の良い。

傍にいたかっただけだった。そのはずだった。だって俺は、君に笑ってほしかった。ただそれだけだった。

まぁ、欲というものはあるみたいで。
傷心した隙に、潜り込んでやろうだなんてな。

苗字じゃなくて、名前で呼んでみた。それで、自転車の荷台に君をのせて坂道を下るんだ。それから、囁くんだ。俺なら君をひとりにはしないって。

でも駄目だった。いつだって君がその瞳に映すのは彼だった。君にとって、彼はかけがえのない存在なんだと、思い知るだけだった。月は太陽がないと輝けない。

俺は太陽になれなかったんだ。

結局、伸ばした手は空を切った。吐き出した二酸化炭素は静寂に消えた。

ならばせめて、と手を差し出すことにした。
俺は君の太陽になれない。

でも、友達だから。なんて、都合の良い。

それでもいい。この手を君が握り返したなら、俺が太陽の光が届くところまで、連れていこう。


161203
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