ふと目が覚めると、目の前に彼の寝顔があった。
男のクセに長い睫毛。形の整った高い鼻。薄く開いた唇からは、すぅ、と静かな寝息が聞こえた。その表情がひどく穏やかだったから、昨晩のように彼の鼻を摘まんでやると、眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと瞳が開かれた。

「おはよ、とーしろー。」
「お前なァ……」
「ふふっ、変な声〜」

ただでさえ寝起きの低く掠れているのに、そこに鼻声がプラスされた彼は、お前のせいだろ、と目を細めて拗ねてみせた。その姿を見て満足した私は、摘まんだ手を鼻から離して、彼の首に巻き付けた。彼もまた、そんな私をぎゅ、と抱き締めてくれた。

「今何時くらい?」
「ちょっと待て……まだ6時前だな。」
「シャワー浴びてく?」
「ん、そうする。」

名残惜しそうに身体を離した彼が、ちゅ、と私のおでこに口付けをひとつ落として、パンツを拾って寝室を出ていくのを見送ってから、私もベッドから出た。適当に服を羽織り、床に脱ぎ捨てられた二人ぶんの服を拾って洗濯機にぶちこむ。お互い仕事があるから、もちろんコースはスピーディー。がたがたと揺れ始めた洗濯機に背を向け、常備してあるとーしろーの着流しと下着とバスタオルを脱衣所に置いた。

キッチンに向かい、ふたりぶんのトーストを用意する。テレビをつければ、朝の情報番組が真選組の活躍(というより破壊活動?)を報道していた。最近過激さを増していた攘夷浪士を大量検挙したらしい。隈の原因はこれか、とひとりで納得して笑みをこぼし、目玉焼きとベーコンを焼こうと、フライパンを火にかけた。

テーブルに朝食が並ぶと、タイミングよく着流しに身を包んだ彼がリビングに入ってきた。向かい合わせに座って、手を合わせていただきますをして。他愛もない話を交わしながら、ふたりで朝食を食べるこの時間が幸せで、思わずふふ、と笑みがこぼれた。

「何笑ってんだ?」
「ちょっとね、幸せだなぁーって思って」

そんな私を、彼は優しく笑った。コーヒーを飲んで、空いた食器を片しにテーブルを立つと、洗い物くらいはさせてくれ、と彼に食器を持っていかれてしまった。そんなさりげない優しさに頬が緩むのを感じながら、今しがた脱水まで終わった洗濯物を乾燥機に移動させて、スタートボタンを押した。時刻を確認すれば、彼の出勤まであと1時間半程だった。よかった、アイロン間に合いそう。

リビングに戻ると、優雅にソファーで新聞を読む彼が目に入った。私の気配に気が付くと、ぽんぽん、と自分のとなりを叩いた。素直に彼のとなりに腰を下ろすと、新聞をローテーブルに置いた彼が、私の膝に頭をのせて、腰にぎゅ、と腕を回した。

「なに、甘えただね。」
「疲れてンだよ、」

そう言って腕に力を込める彼の頭を、優しく撫でる。さらさらと、綺麗な黒髪が指の間を通っていく。

「なまえ、」
「ん?」

お腹に埋めていた顔をあげて、優しく私の頬を手の甲で撫でる彼の瞳が揺れる。その手が気持ちよくて、顔を擦り寄せると、猫みてぇ、と喉を馴らした。

「……仕事、昼からだろ?」
「よく知ってるね。とーしろーは?朝の会議あるんでしょ?」
「なくした。」
「……は?」
「今日は朝の会議なし。だから、」

起き上がって、私の唇をぱくり、と食べる彼。

「……疲れてるんじゃなかったの?」
「だから補給すんだよ、」

そう悪戯に笑う彼に、私は成す術もなく、今日も朝から溺れていく。


オトナの朝は遅い

ああ、乾燥機の呼ぶ音が聞こえる


( 公私混同は切腹じゃないの? )
( うるせェ、その口塞ぐぞ )
( ……喜んで。 )
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