昼休み。購買まで山崎をパシろうかと思ってたのに、明日はミントンのでかい大会があるとかで帰りやがった。地味な癖に地味に勝ち進んで地方代表とやらになったらしい。気色悪ィ。
土方コノヤローに行かせると犬の餌にされちまう可能性があるもんで、仕方なしに購買で焼きそばパンとイチゴオレを買って帰ってくると、でけェ声のおかげでガールズトーク(笑)が嫌でも耳に入ってきた。
「あら神楽ちゃん、じゃあ今週末はその方とお出掛けするのね」
「そうアルな!伝説のカレーパン10個も貢いでくれたからな」
……ふーん、あっそ。相変わらず安いヤツでィ。
なんとなくムカついたから、軽くヤツの机を蹴ってやった。
「!……なにするアルか!」
「悪ィ悪ィ。足が滑っちまったー」
感情を一切込めずに、自分の席に戻る。ふと振り返ると、チャイナが全力であっかんべーをしていた。ブスが余計ブスになってらァ。
近藤さんに話しかけられたが適当に相槌を打って、焼きそばパンをイチゴオレで胃に流し込む。そうだ、次はサボろう。そう思い立つが早いか、アイマスクを引っ掴んで、教室を後にした。胃の中におさまったハズのイチゴオレの香りがむせかえって、鼻の奥にまとわりつく。あークソ。甘ったりィ。
△▽
「今日は来てくれてありがとうね」
「伝説のカレーパン10個のお礼がこんなことなら、お安いご用アル!」
ふふ、本当に好きなんだね、とふわりと微笑んでくれる目の前の彼。進学クラスで見た目も性格もイケメン、運動神経も良くてバスケ部のキャプテン。まさに絵に描いたような人。どこぞのサド野郎とは大違いネ。
そんな彼は、私の大食いが気に入って話し掛けてくれたらしい。曰く、美味しそうによく食べる女性が魅力的なんだとか。どこぞのサド野郎なら、雌豚ががっついてらァ、とか馬鹿にしてくるところアル。
コイツなら、私の彼氏にも相応しいかもしれない。……なーんて。
「どこか、行きたいところとかある?」
「ん〜、特に思いつかないアル。」
「じゃあ、僕に任せて貰ってもいいかな?この前美味しいカフェを見つけたんだ」
そこへ行こう、と左手を差し出してくれた彼。少し照れつつも、そっと自分の右手を重ねると、またふわりと微笑んで、きゅっと握ってくれた。
目的地まで少し距離はあったけど、彼が話してくれる内容が面白くて、あっという間に感じた。歩幅も、自然と合わせてくれていたようだった。到着すると、そこは最近オープンしたばかりのデザートビュッフェがあるカフェで、若い人たちの行列が出来ていたけど、彼はいつの間に予約を入れておいてくれたらしく、すんなりと入ることが出来た。制限時間は60分、彼がよそってくれたキラキラ宝石みたいなケーキ達を頬張っていると、ふと私を見つめる彼と目があった。その目がとても優しくて、恥ずかしくなった私は、目の前のケーキ達に視線を戻した。
本当に彼はいい人だ。これがどこかのサド野郎なら、首輪をつけて引き摺り回したあげく、行列をバズーカかなんかで吹っ飛ばして並ばずに店に入り、食べてる姿をまじまじと見れば、意地悪な笑みを浮かべて雌豚が肥えていく様を楽しんでそうアル。ドSコート間違いなしネ。大違いアル。
制限時間いっぱいまでケーキ達を堪能して、カフェを出る際、さりげなく彼が支払いを済ませていたことにひどく驚いた。高校生のくせにスマート過ぎるヨ!
その後は、近くの大型ショッピングモールでぶらぶらして、少し疲れてきたのをすぐに察した彼がベンチでひと休みしようと提案してくれた。優しくすぎるアル。少し離れたところに、メロンパンが有名な移動販売車を見つけて、涎を垂らしていると、ここでちょっと待っててね、と笑って並びに行ってくれた。
大人しくベンチで待っていると、チャラい男数人が近寄ってきた。ベタベタな展開アルな。ナンパとかいうヤツだろうけど、これくらいの人数なら余裕で追い払える。
「ねぇねぇ、君ひとり?」
「残念だけど、連れもいるアル」
「ええ、でも今ひとりじゃん?暇でしょ」
「暇じゃないアル。やさしいやさしい彼を待って忙しいアル」
「じゃあさ、俺達とお話しして待ってよーよ。あそこのジェラート奢ってあげる」
「本当アルか?!」
「まったく、相変わらず安いヤツでィ。」
勢いよく立ち上がると、男数人の後ろから聞き慣れた声がした。
「あ、君がこの子のお連れさん?」
「誰がコイツの連れでィ。俺ァたまたま通り掛かった正義のヒーロー」
「何言ってるアルか。キモ。」
「うるせぇよチャイナ。お前は食いモンが絡めば誰でもホイホイついていきやがって。野郎のこと待ってるんじゃねぇのかィ。」
「ハッ…!そうネ!私は、彼がおいしいメロンパンを買ってきてくれるのを待ってたアル。ジェラートもいいけどあのメロンパンにはかえられないネ」
まーた食いモン絡みか、なんて自称ヒーローのヤツは死んだ目を向けてきた。ムカついたから睨み返してやると、ヤツははぁ、と溜め息を吐いて、パンパン、と手を叩いた。
「そーいうことらしいぜ。もっと食い意地張ってねェ可愛らしい女見つけなせェ。はーい解散解散。」
ちぇっ、と舌打ちしながらも、言われた通りに解散していく男たち。その後ろ姿を見送ると、ドカッと隣に座り込んできた。
「なんで隣に座るか。キモ。そこはやさしい彼の場所アル。さっさとどくヨロシ」
「やさしい彼じゃなくてすいやせんねェ。つーかお前、前も言ったろィ。そんなもんでホイホイついて行くもんじゃねぇや。もうちっと気ィ付けろィ。」
そう言って鼻を摘んできたから、反撃してやろうとヤツの鼻に手を伸ばすと、すっと避けて立ち上がった。
「あんましフラフラしてんじゃねぇや。」
意地悪な笑みを浮かべてやっと鼻から手を離すと、そのまま背中を向けて行ってしまった。よくみると、その先にマヨラーと頬っぺたに紅葉形をつけたゴリラが見えた。
彼がおいしいメロンパンを持って来てくれたのは、そのあとすぐのことだった。いっぱい待たせてごめんね、と眉をさげる彼に、大丈夫!と笑顔いっぱいで返して、メロンパンにがっついた。甘ったるい。けどクセになる。
ウィークエンドに恋を知る
目障りだけど、ちょっと気になるアイツ
( それで、週末デートは楽しかった? )
( もちろんネ!でも付き合うのは断ったアル。 )
( そうなの?結構満更でもなさそうだったのに )
( 彼にこの神楽様はもったいないアル )