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現代パロ

オレンジに染まる教室が、こんなに美しかったとは。

うっすらと消し跡が残る黒板。整列しているようでしていない机たち。油性ペンの落書きが隠れている壁。薄い埃の膜を纏ったロッカー。つい最近まで当たり前に毎日みてた、お世辞にもきれいとは言えない景色が、たったの1か月ぶりだというのに、こんなにも美しく見えたのは、きっと夕焼けのせいだ。

ガラガラと音を立てて開けた扉の向こう側を、取っ手に手をかけて、ただただ見惚れていた。多分私は、その景色と自分との間に境界線を感じていた。額縁に飾られた絵か、テレビ画面に映し出された映像か、そんな風に感じていた。この教室にはもう、私の席はない。


「入らねェのか、」

どれくらい立ち竦んでいたのだろう。不意に耳に転がり込んできた低い声に、私は思考の渦から掬い上げられた。振り返った先にいたのは、土方くんだった。

「どうしたの?」
「総悟のヤツが忘れ物したらしくてな。」
「パシられたんだ」
「うるせェよ」

現在進行形のこの会話だって、どうしてだろう、懐かしく思えた。そんな私の心情なんて露知らず、土方くんは私の隣を過ぎて行った。境界線を越えた彼は、その景色の一部になった。ったく、どこに置いてったんだよアイツは、なんて愚痴を溢しながら、ふらふらと歩き回る彼の、オレンジに反射する短い黒髪が揺れるのを、美しいと思った。

「あーもうどこにもねェじゃねェかよ。」
「沖田くんの嘘だったりして。」
「だったら殺す」
「仲良しだね」
「どこがだよ」

沖田くんの忘れ物は何かは知らないけど、その何かを探すのを諦めた様子の彼は、よっ、と軽々と教卓に腰かけた。

「銀八が来たら怒られちゃうよ」
「知るか。もう関係ねェだろ」
「卒業したから?」
「卒業したから。」

彼の学ランの胸ポケットに咲いた花の色は黄色だった。私のはピンク色。在校生手作りのそれは、お世辞にも上手いといえる代物じゃないけれど、歪なくらいが私達にはちょうど良い。

「……おまえは、泣かなかったんだな。」
「土方くんもでしょう?」
「男が泣いてどうすんだよ」
「でも近藤くんは号泣してた」
「……そうだったな」
「みんなバラバラになっちゃうもんね」
「感情こもってねぇ言い方だな。他人事みてぇ」
「だって、」

ふわり、そよ風に煽られて制服のプリーツスカートが揺れた。廊下の窓が開いていたらしい。布が当たった部分がちくりとした。

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