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- ナノ -

 引っ越し翌日。

「いらっしゃい、司波兄妹」

「久々だな、明澄」
「こんにちは、明澄」

 我が新居にお客さん――司波達也、深雪兄妹を呼んだ。というか朝連絡があって来た。何でも、横浜に遊びに来るついでにということでわざわざ寄ってくれたらしい。
 片付けも終わって睡眠もしっかりとっていた私は引っ越し翌日にもかかわらず喜んで部屋に入れる。ちなみに見た目もバッチリだ。長袖のシャツにロングスカート、髪はいつも通り両横の一房を残してシニヨン。完璧だね!

 だけど一つ完璧でないところがあってだな…

「片付けも掃除も終わって万々歳なんだけど、お茶だけは今レディ・グレイしかないんだ、許してくれ」

「いいのよ明澄、急に来たのは私達なんだから」
「ああ。悪いな、引っ越してまだ2日目だろう」
「ありがとう深雪。ちなみに、引っ越して2日目だけど荷物なさすぎて掃除まで完璧に終わらせてあるわ」
「…まさかここまで少ないとは思わなんだ。俺より少ないぞ」

 はっはっは、と棒読みで笑いながら備え付けだったソファに座ってもらい、これも備え付けのローテーブルに淹れたてのレディ・グレイを置いた。いただきます、と深雪が口をつけ、嬉しそうに笑った。

「しかし横浜までお出かけとはね。――深雪のお誕生日デート?」
「まあそんなところだ」
「お、お兄様…」

 深雪が勝手にデレ始めたので達也くんに目線を向け、で?と会話を続ける。

「達也くんは進学先どこになった?深雪はもちろん首席入学よね」
「無事に一高だ。深雪は想像の通りになった。明澄はどうなった?」
「無事に文科高校になりましたね」
「ええっ、明澄は一緒じゃないの?」
「ごめんね深雪ー。でも喜んで、首席入学だって」
「まあ!流石は明澄!」

 深雪が不満そうな顔から華やかな顔にコロコロと変わっていく様子を見て思わず笑う。

「まさかそっちで首席になるとはな」
「私もそれは想定外だったわ」

「そうだよね、だって結果を見た時私も風間さんも信じられなかったもん」

 湯気の消えた紅茶を啜る。ちょっとぬるいが、美味しい。アールグレイよりもまろやかな香りが口の中に広がる。達也くんの目線が深雪から私に移ったのを認識して顔を上げた。すると彼は困ったように笑って、

「くれぐれも暴れないようにな?特にその口が」

そんなことを言ったので、

「そっちこそ、朴念仁過ぎて女子を困らせないようにね」

と私も面白がるように言ってやった。深雪が部屋の気温を下げ始めたので、慌てて彼女の機嫌をとる羽目になった。
 …納得いかない。


「しかし、何で普通の学校に通うならわざわざ横浜にしたんだ?土浦でもいいだろう」
「まあ良かったんだけどね?良かったんだけどー…」

 明澄は着ているロングスカートの布地ごと腕を膝下に通して脚を抱えた。

「なんか、孤立してる気がしてさ。どんなにいい成績で褒められても…やっぱり遊びに誘ってもらえないとか、普段は平気でも時折得る"なんか浮いてる"って感覚はどうにも居心地が悪くって。まあもともと横浜市民だから仕方ないのかしらね」

「そうなのか」

「そうです、お兄様」

――というか、二人とも見当違いすぎます!

 深雪はわかっていた。明澄の孤立する理由は横浜出身だけではない。まぁこの理由は後々説明するとして。深雪は立ち上がり、明澄の横に移動して腰を下ろす。そして、明澄の上半身を覆うように抱きしめる。

「多分、明澄がこれから入る場所は、きっと前よりも居心地のいいところだと思うわ。それに、横浜にいるなら、いつだって会えるから」
「…うへへ、そうだね」

 少し鼻声になった声が変な笑いを漏らす。うつむきかけた明澄の顔がパッと前を向き、泣きそうでも嬉しそうに笑っている。

「そうだな。うちにも来るといい。テレポートだろうとコミューターだろうと、来る時は連絡が欲しいが」
「うん、ありがとう達也くん、深雪」

 腕を脚から離して深雪に抱きつき返すと、深雪も力を軽く強めてきた。
 ちょっと嬉しかったので、明澄はにやけた。

引っ越し翌日だけど客人が来ました


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