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 目を開けると職場の天井――――病室の天井と、きらきら輝く金髪が見えた。

「…Good morning?」
「落ち着け、相手は日本語が母語やぞ」

 ぱちくりと何回か瞬きをして、その金髪がシンジさんであることに気付く。――――はい?!

「まってえっ何が――――痛い!」
「急に起き上がるの止めや。左肩治したばっかりやぞ。おーい、杜屋ー。お呼びやでー」

 そう言うと、シンジさんは立ち上がって、杜屋ちゃんを呼ぶ。そうすれば彼女が瞬間移動のごとくやってきて、傍にいた彼を「痛い!」押しのけて私のベッドに手をついた。

「喜多、調子はどう」
「急に起き上がったら左肩が痛かった」
「霊圧不足の症状は」
「ん…ない」
「良かった…!」

 深紫の瞳に載せた焦りの色を霧散させ、落ち着いた様子になった。この様子だと、治療してくれたのは彼女らしい。

「治してくれてありがとう、杜屋ちゃん」
「私こそ、助けてくれてありがとう」

 私が笑うと、杜屋ちゃんは肩から力を抜いた。穏やかな空気が流れ始めた時、のっそりとシンジさんが立ち上がる。

「お前ら何やねん!特に杜屋!」
「あ、私の代わりに見守りありがとうございました。もうお仕事に戻っていただいて大丈夫ですよ」
「あのなァ!俺かて心配してんねん!」
「充分な時間は与えましたよね?」

 杜屋ちゃんがシンジさんをぞんざいに扱っている。しかもよく喋る。正直、彼女の男性に対する対応としては珍しい状況であり、平子真子という男性に恐怖を感じていないという証明でもあった。

 凄いぞシンジさん。杜屋ちゃんに男と思われていないのかもしれない。それはそれで面白いな?

 そんな失礼なことを考えていると、四番隊が誇る(?)皮肉屋サイコパス副隊長がやってきた。杜屋ちゃんが頭を下げる。

「お疲れ様です」
「お疲れ様。平子隊長はこんにちは。思ったより元気そうじゃないか、浦原」
「山田副隊長!」

 それは当たり前じゃないですか!杜屋ちゃんの治療ですから!と胸を張れば、頭をはたかれる。

「痛い!」
「何で怪我を治療する側が怪我してるんだい?しかも勤務に穴開けて」
「うっ、すみません…」
「むしろ永遠に寝てるといい、書類の書き損じが減るのはありがたいからね」
「直接的に死ねと言われた!」
「代わりに勤務する伊江村の方が書類作業においては優秀だからさ。――――杜屋、後で顔を出してくれ」

 じゃあね、と踵を返して病室から出ていく。私たちのやり取りを黙って見ていたシンジさんが何やねんアイツ、と口を開く。

「素直や無いな」
「心配かけちゃいましたね。伊江村くんにも後でお礼言わなきゃ」
「お前寛容にも程があるやろ」

 シンジさんが呆れている。いやあ、あの人はとっても優秀で私にとっては回道を鍛えてもらったお師匠なんだけど、いかんせん性格がひん曲がりすぎてて隊員のダメージがでかいんだよねェ。

「口は最悪ですが性根は比較的善良な方です」
「杜屋ちゃんの言う通りですよ〜」
「それ思っとるの多分お前らだけやろ」

 何でバレた?

 なお、杜屋ちゃんは配属初日、初手であの口にひどく怯えて固まってしまったという過去がある。結果、山田副隊長の方が気を遣って比較的穏やかに喋るようになった。杜屋ちゃんが性根を比較的善良と回答するのは、その気遣いを評してのものだと思う。そりゃあ、今では普通に会話をしているが、山田副隊長の口調が相変わらず優しいものになっているあたり、彼にとっても衝撃的な出来事だったのかもしれない。まあ、こんな尸魂界屈指の美人にフリーズされたらそうなるよね。

「…私はこれで失礼します。喜多、ちゃんと休んでね」

 杜屋ちゃんがシンジさんに頭を下げ、私に手を振って出ていく。彼女と入れ替わりで藍染副隊長が入室してきた。彼女は美女として有名だが、彼も美男子として有名だ。何だこの部屋、見目麗しい人種の入れ替わりが激しい。

「平子隊長、流魂街の損害確認が終了しました」
「ん。聞こか」

 シンジさんが当たり前のように報告を聞き始める。…え?ここでやるの?

「虚閃のダメージはほとんどありませんでした。四番隊二人の尽力の結果ですね」

 藍染副隊長も当然のように報告を開始した。どうなってるの五番隊。

 まあでも、話を聞く限り初手でけがを負った子たちと私たち二人以外に怪我人は発生しなかったらしい。流魂街の方も無事だという。良かった。やったら四番隊が怪我したけど、私を含めて業務に深刻な影響が出るほどのものではないので、数日で元通りだろう。

 さらっと報告を聞いていると、藍染副隊長の目がこちらを向く。

「杜屋三席の実力は伝え聞いていますが、浦原六席がまさかここまで戦えるとは知りませんでした。虚閃、相殺してますよね?」

 眼鏡の奥からこちらをじっと見つめてくる。冷たい瞳だ。…観察されるのはいい気分ではない。

「あ、気づきました?――――攻撃の弱点を見つけるのが得意なんです、あとはうまく霊圧を当てるだけってやつですね」

 だから笑って、嘘をついた。体質を知らせる義理は無い。

 藍染副隊長の目が細められる。食いついてくるかと思ったが、彼はシンジさんに向き直り、後始末はもう少しで終わると言って現場へ戻っていった。

 私が目覚めた時と同じ状況に戻る。違うのは、空気が冷え込むような冷たさに支配されていることか。シンジさんの表情も真剣だ。

「すまんな、嫌な思いさせたわ」
「何のことです?」

 彼の言葉を笑顔で誤魔化して解決――――と思った時、シンジさんの顔がスッと近づく。整った顔が目前に迫って、心拍数が上がる。

「えっなに、」
「藍染の奴には気をつけや」

 あまりにも真剣にそう言われたので、ふざける余地も無く。

「はい」
「エエ子や」

 素直に返事した私の頭をポンと撫でて、シンジさんは病室を後にした。

 …気を付けるって、何を?

「………」

 考えても分からない。頭が悪いからね。


 とりあえず、今日の勤務が無くなったし、やれることもないから、寝よう。

 目を閉じれば、戦闘の疲労が残っているのか、すぐに意識は夢の中だった。




馬酔木のお節介