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 衝撃の出会いから数日後、お母様はいなくなった。ユニはまだ目覚めない。ひとりぼっちの私は、広いテーブルで朝食をとった。とても静かな空間に、食器の音が響いて寂しい。

――――また会おうね、ユノ。

 幼い顔、ちょっと垢抜けないデザインの眼鏡、私と変わらない程度の身長。

「……別に、再会の必要なんてない」

 そう呟いてみる。…涙がこぼれた。

「私はまた会いたいですよ」
「――――!」

 聞き覚えのある声に振り向く。

 私と似た顔で、でも痣があって。
 私と同じ髪質で、でもセミロングではない。
 似ているけれど少し違う、私のかわいい妹。

「おはようございます、ユノおねえさま」
「……ねぼすけが過ぎるわよ、ユニ」

 いつかの記憶と似たようなやり取りをすれば、ユニは笑った。そして、同じようなお叱りになるのかと思いきや、想定外の言葉を告げる。

「一緒に来て」

 妹は私の手を引く。

 一方、私は言った。

「先にご飯を食べなさい。話はそれからよ」
「むう…」

 ユニを席に座らせる。とりあえず、まだ手をつけていなかったサラダとパンを分けて、久しぶりに姉妹でご飯を食べ始めた。…これを食べたら、二人でもう一品ぐらい作ろうじゃないか。




 食事を終え、今度こそユニと外出する。時間がかかると言われたので、暇つぶしにCDを数枚と携帯型の再生プレーヤーを持ち出した。いつの間にか手配したらしい車が待っていたのでそれに乗った。

「どこへ行くの?」
「西の聖堂に」
「?」
「大丈夫。行けば分かりますから!」

 満面の笑みでそう言ったユニに抵抗はできないので、おとなしくイヤホンを片耳にはめた。もう片方はユニの耳に。二人仲良くクラシックを聴く。

 静かな時間が流れて暫く、ユニが口を開いた。

「おねえさま、未来についてはどのくらい覚えていらっしゃいますか?」
「少なくとも、メローネ基地に転属してからアルコバレーノの奥義を使うまではちゃんと覚えているよ」
「そうですか…」

 ユニが視線を手元へ下げる。クラシックはもう演奏時間が終わり、イヤホンから音は流れない。

「おねえさまも、あの後消えてしまったのですね」
「ええ。そういうものだったから」

 私たちは運命を果たして、世界から消えた。自分が死ぬ記憶があるというのは複雑な気分である――――おそらく、ユニもそうなのだろう。

 車が止まる。運転手に礼を言って車を降り、鞄にイヤホンなどを仕舞っていると、強い気配を察知した。これは、おしゃぶりだ。

「――――やっぱり、私の方に来るのですね」
「そりゃあ、私はもういないはずだったから」
「入江さんのお陰ですね」
「………」

 それは、そうだが。確かに、こうやってまたユニと話が出来ていることには感謝するけれど、だからって、その………うーん、複雑!だってもう起きることなんてないと思ってたし!今生の別れを果たしたつもりだったんだ!複雑なんだよ!

 言葉を見つけられず内心で荒れ狂う私の隣で、ユニがおしゃぶりを手に入れる。大空のアルコバレーノ三代目の降臨だ。

「姫!」

 声の方を向けば、知るよりも若い姿をした、ユニの部下たちが揃っていた。よく見れば、白蘭に真の部下たちまで来ている。どうやらジッリョネロだけでなく、ジェッソまでいるようだ。

 ユニとγさんが再会を喜び、割り込んだ白蘭にγさんが案の定敵対する。まあ、未来がアレだったので、しょうがないどころか正当性すらあるように思う。

 しかし、それではいけないようだ。状況がよく分からないので様子見をしていると、ユニが代理戦争のために『ミルフィオーレファミリー』を必要としていることが分かった。お母様の下りは、彼らより私やユニの方がよく知っているだろうからいい。

「なぜこんな奴に姫の代理を!」
「僕らベストパートナーだからさ♪」

 そこでべったりくっつくあたり、白蘭は今でもユニに興味を持っているようだ。未来ではユニとγさんは相思相愛の仲だったが、どうやら時代関係なくγさんの恋路は険しいらしい。

 ホワイトスペルとブラックスペルの対立が激化し、炎を使ってケンカが始まりそうになったところを、ユニの一声が止める。

「あの、皆さん、紹介したい人がいるんです!」

 そう言ってユニは白蘭からもγさんからも離れ、私の隣で嬉しそうに話しだす。待って、誰とは言わないけど視線が怖い!

「私のおねえさま、ユノです。皆さんも、未来ではご縁があったのですよ?」

 皆が戸惑うようにこちらを見る。やはり、覚えていないようだ。実際、私の存在を知ることもない人だっている。

 こちらとしても、本当に未来でも知らない人がいるのだがどうしたものか…と思っていると、スッと白い手が差し出される。

「やあ、柚乃チャン。…いや、違うね、ユノ。久しぶりだねえ」
「白蘭…」
「そんな驚かなくたっていいのに〜」

 目を瞬かせつつも握手を交わす。記憶の彼とは違い、穏やかに凪いでいる。そこに悪魔の所業を為す片鱗はない。
 そんな彼はニコッと笑う。

「冗談抜きで、ユノの存在を感じている人は多いよ?正チャンみたいに自力で思い出した猛者はいないと思うけど、僕やボンゴレ九代目のように未来から記憶を受け取った人間で、"二人分"の大空の炎を感じ取った人間はそれなりにいる。僕はユニに『おねえさまに会いに来て』って言われて初めて二人目がその子であることに気付いて、あれよあれよと思い出した。そして今、君は実体として目の前にいる。もう、疑うところは何も無いよね」

 …すごい。

「……白蘭。私は、あなたが真っ当に思考をして会話をすることができるという事実に驚いているわ」
「ははっ、やっぱり柚乃チャンじゃないか!」

 いや、しょうがない。未来のあなたは思考は真っ当だったとしても会話が成立しないというか、傲慢そのものだったじゃないか。

 隣に立った白蘭に背中を押され、私は現時点では初対面のミルフィオーレファミリーへ挨拶をする。

「ユノです。妹がお世話になっています。よろしくお願いします」
「なんて呼んだらいいんだ?『ユノ様』?」
「『お嬢』、じゃないか?」
「呼び捨てで構いませんよ」

 記憶に残るやり取りが再現される。ちょっぴり面白くて笑ったら、野猿さんが目を輝かせた。

「ボスにそっくりだ!やっぱり姫の姉ちゃんだな!」
「…ありがとう」
「俺、野猿!『お嬢』って呼ぶからよろしく!」
「はい、野猿さん」
「俺のことは呼び捨てな!」
「っ、はい…野猿」

 握手を交わしたところで、空いている左腕を誰かに取られる。

「にゅにゅ〜!『お嬢』なんてゴツい!ユノでいいじゃん!」
「あ!お嬢を呼び捨てにするな!」
「べーっだ!」

 可愛らしい青髪の女の子はブルーベルと名乗った。もしかしなくても、未来で私と入江くんに物騒な言葉と共に攻撃してきたあの子ですよね?

「ユノ!ユニも一緒に、あっちで遊ぼ!」
「おい!姫とお嬢は俺と遊ぶんだ!」
「あ〜はいはい、みんな一緒に遊ぼうね〜」

 何だこの状況、助けてくれ――――そう言わんばかりに白蘭を見れば、彼は爆笑しながらも助け船を出してくれる。

「まーまー、仲間なんだし♪ケンカやめて日本行こ」

 その言葉で二人は動きを止めた。しかし、「大丈夫、ユノも一緒だよ」という言葉が続いたことで、私の両隣はまたケンカを始めた。

 ああ、しんどい…。




ほんものの火よ騒げ