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 翌日。入学したて、ピッカピカの一年生であるB組への挨拶を終えた私は一階に降り、朝とは違い職員用玄関から表に出る。そして建物の陰から1-Aの様子を見ようとスポットへ向かうと、

「あ、オールマイトさん」

 秘密を私たちと共有する病弱設定な学園のアイドル新米教師、オールマイトさんがそこにいた。彼も気になって仕方がなかったらしい。暇なのかな。私は職務の一環と言い張るけどね。

「やあエル痛っ…佐倉ちゃん」

 おっと、困りますよヒーロー名は。笑顔で足を踏みつけて発言を訂正させたあと、オールマイトさんと一緒に建物の陰から1-Aの個性把握テストの様子を伺い見る。

「やっぱり心配ですよね」
「君も見に来たのか」
「だって去年一クラスまるまる切っちゃったんですもの」

 あの後大変だったんですよ?去年の大変さを思い出していらっとしたら殺気が漏れ出たらしい、オールマイトさんに全力で止められた。彼はわたわたしながら話を転換する。

「そういえば佐倉ちゃんは自分の名前で授業にでてるんだよね?」
「はい。一応ヒーロー資格も教育権も持っていますが、ここには普通の教師として雇われました」
「じゃあ君、今入学式なんじゃ…」
「私、クラス受け持ってないですし、ヒーロー科の一般教養しか授業ないんですよ」
「微妙な立ち位置きた…!!」
「まあそのおかげでヒーロー名を名乗らないで済むのは喜ばしいです」

 はあ、とオールマイトが複雑そうな表情で表向きは納得の言葉を放った時、私の目は相澤先輩の個性が発動したことを捉える。

「あちゃー」
「む?………相澤くんか」

 新入生ーー確か緑谷出久くん、緑谷くんを睨みつける髪の毛スーパーやさい人…ごほん、個性を使った相澤先輩は何やら緑谷くんに言っている。お願いだからやめさせないでほしい。だけどなぁ…

「彼の個性、発現したてな感じですよね」
「!!ーーソ、ソウカナ」
「はい。ーー相澤先輩が一番嫌がりそうです」

 彼がやめさせたがるのもわかる気がするのだ。何故オールマイトが焦るのかは気にしないであげよう、うん。
 向こう側ではスーパーやさい人からいつもの相澤消太先輩に戻る。残り一回でどうにかしてみろ、というのは相変わらずハードですね先輩!
 何やら落ち込んでいるようにも、考えにふけっているようにも見える緑谷くんは、先ほどと変化なくボールを投げるらしい、相澤先輩が見込みねえなぁという顔をし始め、周囲はざわめき始めた。しかし、緑谷出久という少年はそれで終わる人間ではなく。

「賢い…!!」
「!」

ーー指先だけに個性を出したのか!

 予想をはるかに超える飛距離とその作戦。流石の相澤先輩も満足したのかニッコニコだ、怖いなぁ。でもとにかく窮地は脱した。

「…良かったですね、オールマイト」
「え、」
「気に入っているのでしょう、緑谷くん」

 そう言って笑うと、オールマイトもにっこり笑うものだから、よかったなぁと安心する。公私の区切りつけてくださいよとも思ったが。

 そのあと、爆豪くんが荒れ狂うアクシデントもあったが、無事に個性使用体力測定は終わった。合理的虚偽を発表してからの生徒の安心様には…同情した。相澤先輩ったら嘘つくの大好きですねぇ、おかげで私はまた去年の悲劇が繰り返されないかヒヤヒヤでしたよもう!!まったく、

「相澤くんのウソつき!」
「なんで(思ってること)言っちゃうんですかオールマイトさん!!」

 慌てて袖を引っ張るがすでに遅し。こちらにやってきた相澤先輩がギロリとこちらを睨むように見る。

「オールマイトさん…見てたんですね…暇なんですか?」

ーー私無視?!

「佐倉ちゃんも見てたよ!ーーで、『合理的虚偽』て!!エイプリルフールは一週間前に終わってるぜ。君は去年の一年生…一クラス全員除籍処分にしている。『見込みゼロ』と判断すれば迷わず切り捨てる。そんな男が前言撤回っ!それってさ!君もあの子に可能性を感じたからだろう!?」

 オールマイトさんがキラキラしている。本当に気に入ったんだなぁ、緑谷くんのこと。 逆に相澤先輩のこの目の死によう。ちょっと面白いかもしれない。

「ずいぶんと肩入れしてるんですね…?先生としてどうなんですかそれは」

 変なことを考えていたからだろうか、すごい殺気を伴って睨まれる。無意味だが両手の甲を目の前にかざして視線を遮る。

「"ゼロ"ではなかったーーそれだけです。見込みがないものはいつでも切り捨てます。半端に夢を追わせることほど残酷なものはない。………佐倉、こっち来い」
「っはい!じゃあ失礼しますねオールマイトさん」

 パタパタと早足に駆け寄って、歩き始めた相澤先輩の横に並ぶ。すごい睨まれているのを目線をそらすことでかわす。

「お前生徒に身バレしたくないとか言ってるくせにのこのこ出てくるなよ、ヒーローだと疑われるぞ」
「はーい…痛い痛い痛いです!!」

 相澤先輩の捕縛武器が私の頭をキリキリ締め付ける。すごい痛い。今ただの服しか着てないからコスチュームの加護すら受けられないだけにダメージがフルにやってくる。頭砕けそうです。

「少しは反省しろ」

 そう言って私を解放した相澤先輩。あー痛かった。…普段ここまでされないのに。オールマイトと一緒だったからか…?

「………嫉妬ですか?」

 痛む頭を押さえながら聞くと、

「くたばれ」
「うわあ拳骨っ」

 相澤先輩の拳骨が降ってきた。痛い。

「行くぞ佐倉」
「あ、ハイ!」

 数歩先を行って振り向いた相澤先輩に呼ばれ、また少し早足に駆け寄って追いつく。なんだかんだ隣を歩かせてくれるし本当はもっと歩くの早いのに遅めに歩くよう気を使ってくれるあたり、合理的でもどこか甘さを兼ね備えたバランスの良い性格をしている。

「ほんといい人ですよね」
「何か言ったか?」
「いいえ。さ、仕事は待ってくれませんよ!時間は有限、でしょう?」
「……そうだな」

 今日も一緒に仕事ができる。
 私はそれが嬉しくて仕方ない。
 果たして私たちの距離感は何で例えられるのだろう。

憧れと自分の距離はどのくらい


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