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 とある日の朝。うららかな気候の中、爆発音と煙、悲鳴が街に響く。

「敵だー!!!」
「逃げろ!!」「ヒーローはまだか?!」

「倒せるもんなら倒してみろよ!!まあ無理だろうけどな!!ハッハー!!」

 その元凶、スライム型の敵が街を蹂躙して行く中、ド派手なカラーリングのヒーローが現れる。

「我こそは武闘派ヒーロー プロテイン!!そこの敵、成敗してくれる!!」
「プロテインだ!」「頼むぞ!!」「やっちまえー!」

 様々な声援がかかる中、プロテインはスライム型の敵と対峙し、スライムを殴りつけていく。すごい勢いでスライムが木っ端微塵になっていく様に、ギャラリーの熱気も上昇する。しかし。

「こんなんじゃ死ぬのは困難じゃ、なーんちって!!」
「くっそ、キリがねえな…」

 どんどん粉砕していくが、いつまでも戻っては生まれ続ける。そしていつの間にか増えたスライムはプロテインを包囲しており、疲労だけがたまっていく危機的状況に冷や汗が止まらない。

「おい、まずいぞ…!」
「他のヒーローはまだかよ?!」

 ギャラリーも危機感を感じ取り、不安一色に染まりかけた時、ギャラリーの頭上で影が動く。それは易々ギャラリーの壁を越え、音もなく着地してみせる。

「待たせたな」

 そこに飛び入り参戦したのは、耳まですっぽり覆うニット帽にゴーグル、ユニセックスのジャケットにネックウォーマー、ポケットだらけのサルエルパンツ、裾がしまいこまれたエンジニアブーツといった性別特性をことごとく隠すコスチューム姿の若者。分厚めの手袋を手首で固定するパーツからワイヤーを放ち、ターザンのように移動してみせる。その動きは軽やかで女性のようにも見えるが、見た目はどう見ても女の人ではない。しかし、男とも言い切れぬ格好のそのヒーローは、スライムとプロテインの間に移動すると周囲の様子を見て言った。

「スライム、この一体から殴って撒き散らしたの?」
「あ、ああ…そうだが…」
「………力の凄さは誉めたたえるけど、今回は愚策」

 中性的な声の高さ。本気で性別がわからないが、ましてやどこの誰かもわからないが、戦闘態勢をとった彼もしくは彼女に、プロテインは全力で止めにかかる。

「ま、待ちたまえよ君!こういうタイプは――」
「そんなのは関係ない」

 手ごろな壁にワイヤーを撃ち、高速で巻き取ってスライムに近づく。そして本体と思しき塊を叩き、離れる。

「こんな攻撃じゃ俺はノーダメージだよバァカ!!」
「何やってんだ…」

 敵も周囲もやわな攻撃にあきれ返るが、それは次の瞬間に驚きへと変わる。

「うぎゃあああああ!!!」

 先ほどまでピンピンしていたスライムから気泡が発生し、どんどん水分が抜けていく。そしてほとんどスライムが乾燥しかけた固形になり、悲鳴が聞こえなくなり始めた時、少し離れた場所で立っていた若い人は指を鳴らして気化を止める。そしてスタスタ近づくと、どこからか取り出したボトルにスライムらしき物を入れ密閉する。彼、もしくは彼女はボトルをポケットに詰め、周囲にいるギャラリーやヒーローの方を見て一言。

「誰がやわな攻撃をしたって?」
「「す、すいません………」」
「そうだ、そこの破壊希望だったヒーローとしては精神面が疑われるあなた。――そう、あなた。私はもう行かないといけないから、後片付け頼めます?そのスライム、もう攻撃はできないから、掃除だけで大丈夫。この敵がこの場所で暴れた証拠になるから、あなた自身の栄誉のためにも破壊しないように」

 謝罪モードになったのを見届けて、さらに注文を言って満足したのか、彼、もしくは彼女はよろしく、とワイヤーを放って高速で現場を後にする。
 あっけない退場に惚けた現場。しかししばらくして誰かがああ!と叫ぶ。

「あいつ!詳細不明すぎることで有名な、エルセロムだったんだ!!」
「メディア嫌いで性別すらよくわからないヒーローか!」
「やっちまった…!写真とっとけば良かった!!!」
「出没率低いんだよな」
「触れるだけで敵を倒せる個性って一体なんだよ?!」

 謎だけを残して、エルセロムは現場から消えた。



 雄英高校職員室。
 入学式やら新学期やらでざわめく室内に、エルセロム――本名 佐倉成実は空いている窓へ滑り込み、音もなく着地を決める。そこで待っていた一人のヒーローが窓を閉めながら彼女に声をかけた。

「グッモーニングだぜ佐倉ちゃん!」
「おはようございます、マイク先輩。窓開けてくれてありがとうございます。今日もいい声してますね」
「Thanks!!佐倉ちゃんもお仕事お疲れ!!」
「どうも。入学式前日くらい普通に出勤したかったなぁ」

 ゴーグルを下ろし、ニット帽を外す。手早く結んだ髪を解くと、荷物を持ったまま教員用の更衣室へ駆け込む。そして自分のロッカーに荷物やゴーグルを始めとしたコスチュームを入れていきながら着替えを開始する。そして、最終的にはユニセックスを極めた格好から、タイトスカートのスーツスタイルになり、セミロングの髪はギブソンタックに纏められた。

「こんなもんかー」

 ヘアピンで垂れる髪を留めたりと最後の仕上げをして、ロッカーの扉についた鏡に向かって微笑む。よし、完璧。

 職員室に戻り、自分のデスクで会議までの間に書類をいじる。内心で状況を処理しながらやることリストを時間別に脳内で組み上げていく。そして1日の活動を決めた時、デスクの位置的に隣人となる教師がやってきて、席に着く。

「おはようございます、相澤先輩」
「おはよう」

 抹消ヒーロー イレイザー・ヘッド。私が長年追いかけ続ける偉大な先輩。彼がいなければ、私は今頃ヒーロー資格は持っていなかった…それくらい、私にとって影響を受けた人だ。多分彼はなんとも思っていないだろうが。

「佐倉」
「はい」
「明日、俺のクラスは入学式には参加しないからよろしく頼む」
「いきなりですか。――分かりました」

 あとこれ、と書類を幾つか受け取る。そして、時間になったので職員室全体で情報をやり取りし、何より朝の挨拶やらも兼ねた朝の職員会議が根津校長の一声で始まった。これが終われば、私はいつも通り業務を行い始める。国立雄英高校教員の私と、プロヒーローの私。別々の任を1つの体に背負って、私の毎日はできるのだ。

――今日も頑張ろう!

 気合を入れて、今日も私は全力で働く。
 こんな奴が、詳細不明のヒーロー エルセロムの正体だ。

詳細不明を極めたヒーロー


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