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 軍施設の一室。何もない綺麗な部屋に、少しの本と遊び道具が置いてある。そこに1組の父娘が入ってくる。父親は軍服を着ていて、大尉であることと苗字が栗本であることが見て取れる。娘は肩までの髪を二つに結い、入構証が手首に名入りでついていて、そこに栗本明澄の文字が見えた。
「じゃあ明澄。父さんはこれから仕事をしてくるから、ここで遊んで待っててくれるかな?」
「うん」
「一応風間に頼んで、柳くんとか真田に時折様子見に来てもらうようにしたから、多分退屈はしないと思うけど、ケガと破壊だけはしないように」
「わかった。おとーさんもケガしないでね」
「おうよ!じゃあいってくる」
「ばいばーい」

 1人になったちび明澄(小学二年生)は、置いてあったクレパスと塗り絵の本を持って部屋の隅に向かうと、壁を背もたれにして座り、膝を立てて腿を机のようにする。そしてクレパスを一本取り出し、思い思いに色を塗っていく。やり方は意外にも適当ではなく、きちんと順序立てて行われていた。

『ねえ明澄。うまい塗り絵の塗り方って知ってる?』
『しらない。どうやるの?おかあさん』
『そうね。塗り残しやはみ出しが気になるなら、先にどこかを塗っておけば後は楽になるわよ』
『うーん…はみださないようにていねいにぬるとか?』
『それじゃあ疲れちゃうでしょ?他に何かアイディアはない?』



「『縁を書くように塗って、そこから真ん中を塗りつぶす』」

今頃民間の仕事場でせっせと働いているだろう母親から教わった事を生かしながら、きれいに色を塗っていく。5枚目の絵柄を塗り終えたとき、部屋の自動ドアが開く。現れたのは柳連。

「よう、明澄。――俺が一番乗りか」

 誰もいない事を確認して―まあいるわけないのだが―明澄の頭をぽんぽん撫でる。明澄は嬉しそうに笑って、柳を見上げる。

「こんにちは、やなぎさん。鬼ごっこしよ」
「ルールはどうしたい」
「まほう使いたい」

 柳はふむ、と少し考えた後にしゃがんで明澄と目線を合わせる。

「そうか。じゃあ人に怪我させないのと、無理はしないことを約束できるか?」
「ケガさせない、むりしない。おっけ!」

 オッケー、と右手で主張すれば、柳は笑みを浮かべて立ち上がる。

「よしよし。でも二人じゃ飽きるよな。誰か暇人を呼んでこようか」
「じゃあ待ってる」
「ああ、待ってろ」




「それで僕なの?なんで?」

 しばらくして柳に引っ張られるように、呆れ顔の真田がやってきた。柳とはやはりというか…小突き合いになる。

「仕方ないだろ、暇だったのお前だけなんだよ」
「せっかく新武器の構想練ってたのに」
「でも栗本大尉に頼まれてるだろ」
「そりゃそうだけどさー」

 しかし子供にはそんなことは関係ない。パタパタと駆け寄る音とともに、

「さなだ!鬼ごっこしよ!」

明澄が真田に命令するかのように指をさす。

「え、鬼ごっこするの」
「ああ」「うん!」

 指さすのやめなさい、と注意しつつ、彼は呆れ顔から苦い顔になった。

「嫌だよ疲れる。てか何で僕だけ呼び捨てなの?柳みたいにさん付けしてくれないの?」
「だってさなだはさなだだし」
「なんか理不尽じゃない?」
「正当だと認めるぞ」
「お前なぁ」

 柳に頭を撫でてもらい満足そうな笑顔を見せる明澄と、それを見て思わずにやけた柳、――そしてそれを目撃した真田。
 次の展開は、やはりというべきか。

「柳お前その顔なんだよまじ笑える!!!」
「っ!な!見てんじゃねえよくそったれ!!」
「栗本大尉の娘には形無しだね!!」
「今すぐ殺してやる…!」

 互いに魔法を使っての鬼ごっこが始まる。怒気迫る顔で真田を殴らんとする柳と、それを爆笑しつつかわす真田。明澄はというと、

「すげー」

完全に観戦者になり、キラキラした目で小突き合い――乱闘騒ぎを見つめる。時折飛んでくる流れ弾は全て自分の魔法で別の場所に瞬間移動させるので怪我をすることも飽きることもない。キャッキャしながら一人で楽しんでいる。

 そして1時間後――

「…くっそ、死なねえな」
「君もしつこいねぇ…」

ゼエハア言いながら、決着のつかない二人の乱闘は終わる。体力切れで二人とも地面に寝転び、荒い息を整える。

「おつかれですー」

 明澄は慣れたように、どこから手に入れたのかタオルとスポーツドリンクを持って倒れた二人のそばへ向かい、二人にセットで手渡す。

「ああ、すまないな」
「ありがとう」

 二人は同じ動作で汗を拭い、同じ動作でスポーツドリンクを飲む。その様子を眺めていた明澄はニコニコしながら、

「さなだとやなぎさん、ほんとうになかよしだよね」

と感想を述べる。それを聞いた二人はやはり同じ不満そうな表情で互いを見る。

「…」「…」
「ほら、また同じうごきしてる」

 そう言って明澄が笑えば、柳も真田も笑うしかなく。
 こりゃ敵わないな、と二人はやっぱり同じ言葉を内心でつぶやくのであった。


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続くよ!



幼少期の彼女と将来の一〇一メンバー


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