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 王都エクバターナから東に進んだところにあるニームルーズ山中の城塞、カシャーン城塞。そこへ至る道をアルスラーン一行は馬で西日に向かって逃走していた。

「ルシタニアの追っ手の数は!?」
「五百騎といったところか!ちと多いな!」

 ギーヴとナルサスが後ろで状況を確認する中、先頭を走るイシュラーナは脳内に事前に暗記しておいた地図を思い浮かべながら道を選択して進んでいく。

――兄さん!まだですか!!

 義従兄、ダリューンはカシャーン城塞のホディールに助力を求めて一足先に向かっている。距離的にはもうそろそろ援軍が着いてもおかしく無いのだが、まだ何も見えない。

――西日に向けて走るのもあとどれぐらい保つか…

 イシュラーナは今まで進んだ距離を計算したが、残りがもうあまり無いことはわかりきっている。西日を受けられなくなれば、敵の視界を邪魔するものが減ってしまう。後ろを向き、フードの中から赤い目を敵方に向けて距離を測る。…一応まだルシタニアの技量で弓が届くような距離にはいないと判断を下した。だが、いつつめられてしまうかもわからない。それに、彼らだって気づいているだろう。私たちがわざわざ西日に向けて走っていることくらい。

「兄さん、早く…!」

 そう呟いてしばらく経ち、イシュラーナが次の手を実行に移そうかと考えている時、パルスの進軍ラッパが鳴り響く。そして次の瞬間には崖上からルシタニア兵に矢が降り注ぎ、彼らの足を止める。

「!」
「来た!」

 殿下の一際嬉しそうな声が聞こえる。それはそうだ。崖上にいるパルス軍を率いているのはダリューンで、つまりは義従兄は救援を呼んで戻ってくることに成功したわけわけで。

「ひっ…退け、退けーっ!!」

 ルシタニアは蜘蛛の子を散らすかのように撤退していく。ナルサスが手をあげればダリューンも答えるように手を挙げており、逃げていたアルスラーン一行も、救援を呼んで来たダリューンもとりあえず安堵する瞬間であった。


 王都エクバターナより東、カシャーン城塞。

「殿下!おおアルスラーン殿下!よくぞご無事で!」
「ホディール!」

 兵に護衛されながら到着したアルスラーン一行を待っていたのは、カシャーン城塞の主 ホディール。パルス有数の諸侯である彼は、金持ちの象徴であるかのような煌びやかな服装でアルスラーンに会釈する。

 イシュラーナはちらり、と周囲を見渡す。よく鍛え上げられた、練度の高い兵士たち。その中で地面に座り、こちらを見ている奴隷たち…かなりの人数だ。

「ところでそちらの方は…?」

 キョロキョロしていたのがまずかったか、それともフードを被りっぱなしだったのが悪いのか。彼の興味がこちらに向く。なんだよ、ギーヴさんとかファランギースさんとかには興味ないくせに。

「失礼しました。――私はイシュラーナ、殿下にお仕えしています。お世話になります、ホディール殿」

 フードを外し、頭を下げる。赤い瞳で彼を見れば、一瞬その色に反応したように見えた。それとも紺の方だろうか。何にせよ、あまりいい気持ちではない。

「おお、ダリューン殿の従妹殿でありましたか。どうぞごゆるりとお寛ぎください」

 どこかこちらを馬鹿にするような意味合いもあるように思う。気づくところは多いが、何も気付かなかったかのように振る舞う。
 まあ、アンドラゴラス王が大好きなタイプなら、女は戦なんぞせず家を守れという思考なのだろうから仕方ない。そう割り切るが、少し複雑な思いを抱えつつ、連れて行かれる殿下の後についていくしかなかった。

安堵と嫌気


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