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「…っ、」

 雨の後、霧深い森の中。ずぶ濡れで薄汚れ、ぼろぼろの衣服を着た私は脚に得た大きな切り傷の痛みと疲れで一人、湿った土へ崩れ落ちた。遠くなる意識の中で土の匂いが脳内を埋めていくそんな時、ふと人の気配を感じた。一人で、どうやら馬に乗っている。

 誰だろうか。味方になってくれるならば助けてくれるかもしれないが、山賊など敵であったならば真っ先に物色されたのちに斬り殺されるだろう。本来なら後者を考えて逃げるべきだが、あいにくその体力も気力もない。息をするのも億劫な状態で、ただ一人動かずにいた。

 しばらくしないうちに音の進行方向がこちらを向き、近づいてきた。そして私の前で止まる。うっすらと目を開けると馬の蹄が見え、馬から降りた人物はそれなりに年を取っていたが武人のようにたくましく、質のよさそうな鎧が見える。白いマントが返り血に濡れているのを見ると、どうやら人を斬った後のようだ。

「…お主、戦場にいたのか」

 心底驚いているような声が耳に届く。私が首を横に振ると、急にしゃがみこんで私の体をうつ伏せから仰向けにひっくり返した。丁寧に、足の傷に気を遣ってくれている。

「大きな傷は右足の太ももだけだが、栄養失調が酷い。何日も食べてないだろう」

 すまん、と言いながら私のマントを引きはがす。現れた髪と瞳の色を見て驚くこともなく、何の反応もしなかった。彼はマントを引き裂いて止血に使い、水で濡らして顔を拭ってくれる。その後水筒の水を飲ませてもらうと、ようやく私は安堵し始める。張りつめていた気が一気に抜けてしまって、私はそのまま意識を失った。

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