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 森の中の水辺を、肉付きのいい二羽の鳥が歩く。トテトテと歩き、落ち着いた様子の二羽だったが、ふと一羽が何かに気づく。

 次の瞬間、ドッという鈍い音と共に片方が倒れる。倒れなかった一羽は倒れた一羽を残して羽ばたいていく。その様子を、少年が木陰から見ていた。彼は食料となるであろう鳥の首を掴むと、刺さっていた矢を抜く。そして、その矢が飛んできた方向、木の上を見て笑みを浮かべる。

「お見事」

 視線を受け声をかけられた、少年の弓を持った少女は、フードを被らず紺色の髪と真紅の瞳をあらわにした少女は嬉しそうにニコリと笑う。

「義理とはいえ、大将軍の娘ですから」




 食料を無事手にしたイシュラーナとエラムは拠点に戻った。

「イシュラーナです」
「エラムです。ただいま戻りました。…なにごとです?」

 暗い洞窟の中、奥の方で金属が打ち合う音が響く。エラムが近くにいたナルサス問いかける。剣の稽古をしている、という返事を聞いて思考を始めたエラムに対し、イシュラーナは、

「久々に見ました。前は義父が相手でしたが」

そう言って被っていたマントをボタンをとって外して適当なところにかけると、タオルと水の準備を始めた。準備とはいってもさほど時間はかからない。

ーーああ、この後にお茶タイムが取れないのが残念です。いつもなら、だらだらする時間が待っているのですが…

 内心、昔のようにのんびりできないことを残念に思いながらイシュラーナは2人分の支度を終えると、洞窟の後ろへと向かう。そして、自分の信頼する友人かつ主君と従兄が打ち合うのを中断した時、

「とーー…兄さん、アルスラーン様。そろそろ休憩にしてはいかがですか?今なら干しあんずをつけますが」

かつて義父と王太子が打ち合いの稽古をしていた時と同じような笑顔で微笑んだ。



「さて、そろそろ山を下りる相談をいたしましょう」

 休憩をとりながら、ナルサスが口を開いた。外の方を見てニヤリと何か企むような顔をしてから、普段よりも大きな声で、

「我々は14日の夜に、山の外にいる仲間と呼応して突破いたします」

と4人を見ながら言った。その発言に信じられない言葉を聞いた4人はしばし固まる。真っ先に復旧したのはアルスラーンで、ナルサスに向かって質問を飛ばそうとした。しかし、それは次に復活したイシュラーナに口を塞がれて失敗する。

『イサラ?』

 イシュラーナは口元に人差し指を当て、静かにと合図を送る。そして、ニヤリとナルサスを見るとこちらも声を張った。

「ああ!ナルサスさん、ついに連絡が取れたのですね!それは素晴らしいことです!」

演技のような声の張り方に、ダリューンとエラム、そしてアルスラーンも気がついた。どうやら、ナルサスは外にいる誰かに嘘を吹き込みたいらしい、と。そうとなれば、口々に嘘を述べて行く。

「やったな!これで、麓の奴らを蹴散らしてこの山奥から脱出できる!」
「となると出発の準備をせねばな」
「でしたら糧食を作らねばなりません。ちょっと量が多いでしょうから、手伝っていただけますか?」
「もちろん!」

 あくまでもこちらが有利になるように。そう考えて発せられた嘘がひと段落ついた時、ナルサスが止めの合図をする。そしてエラムに外を確認させ、確かに人がいたこととその人間が山を下って行ったことを確認した。

「なかなかうまい演技だった。あの木こりは私の味方でな、何も言わず数日家にいない時は何かあったということでここを通って欲しいと伝えてあったのだ。
では、準備をしよう。ちなみに本番は今日の夜で」

 ナルサスがいい笑顔で、楽しそうに言った。
 あまりのナルサスの用意周到っぷりに、4人が感嘆の溜息をついたのは想像に難くない。



 夜。支度を終え、イシュラーナお手製の"備えすぎ"も完備した5人は馬に跨りそれなりにスピードを出して山を下っていた。イシュラーナの赤い瞳が、麓の明かりを捉える。

「明かりが見えました」
「よし、俺が最初に行こう」

 ダリューン、ナルサス、アルスラーン、エラム、イシュラーナの順に並び、はっきり見えた麓の野営地を目指して進む。

 そして、イシュラーナがフードを被った時、ダリューンは無言で敵兵の頭上を飛び越えた。
 黒衣の騎士の出で立ちは闇に同化しやすい。そのため、1日ずれて敵が押し寄せるなど思いもしない、すなわち油断しきっていた敵兵たちは闇から現れたダリューンに押しつぶされるハメになった。

「いいぞ!突っきれ!」

 ナルサスはひどく楽しそうに後続に声をかける。その指示通り、アルスラーンやエラム、イシュラーナも野営地を突っ切っていく。

「明日じゃねえのかよ!」

 敵兵の心の叫び、もしくは発せられた叫びに、ナルサスはにこやかに笑って馬を止めた。

「やぁ、すまんすまん。山中にこもっていて暦を見ることができなかったのでな。日にちを間違えた」

 そうして全員が突っ切って、

「では、さらば!」

ナルサスの別れの挨拶を置き土産に、敵兵たちの獲物は去って行った。



おまけ

@イシュラーナとナルサス
「すごいです!とっても楽しかったです!」
「だろう?見たかあのマヌケな顔、あれ見たさに策を練った甲斐があった!」
「私もあんな風に敵を出し抜く策が錬れるようになりたいです!」
「大丈夫だ!殿下やエラムと一緒に、イシュラーナにもきっちり仕込んでやるから!」
「嬉しいです!あはははは!」
「はっはっは!楽しみだなぁ!」

A@を見た殿下とエラム、ダリューン
「イサラが生き生きとして見える…」
「ここ最近で一番のご様子なのではないですか?まあ、過去は知りませんけど」
「エラムの言うとおりだ。ーー頼むから、あの下手くそな芸術だけは仕込んでくれるなよ…」
「………」
「………」

真夜中の脱出


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