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 昼下がりのパルス王国 王都エクバターナ。王宮中庭の噴水の傍で暇を持て余す一人の少女がそこにいた。服装はフォレストグリーンの上衣に白のズボン。フード付きのマントを羽織った彼女は流れ落ちる水を意味もなく眺めながら、午前中のことを思い出していた。



 午前中、王宮の巨大な門をくぐり、イシュラーナは王族二人と謁見を果たした。パルス国王アンドラゴラス陛下とその妃タハミーネ。やはりバラバラの謁見だった。

「お初にお目にかかります。ヴァフリーズが義娘、イシュラーナと申します」

 頭を垂れてアンドラゴラス王に挨拶をし、顔を上げるよう言われるので言うとおりにする。紺の髪と赤い瞳をまじまじと見られた後、いくらか言葉を発した。どうやら私のことは父さんから話に聞いていたらしく、事前に知識を持っていなければ得られることのない内容の質問が飛んできた。ただし、興味があるかと言われれば微妙なところ。

「お前は武術と学問どちらが好みか」
「しいて言うならば武術を。しかし、知恵がなくては生きていけません」

「料理をするようだな」
「趣味程度のものですが…」

 その後は特に何もなく、そのまま謁見は終わった。




 次にタハミーネ王妃に会った。

「お初にお目にかかります。ヴァフリーズが義娘、イシュラーナと申します」

 彼女もまじまじと私の容姿を見た。そして一言、質問を投げかけた。

「その髪は本物なのですか」
「はい。生まれつき」
「そうですか」

 そうつぶやいた王妃様はそれから特に何かを話すわけでもなく、下がるよう言ってきたので退室した。




 結論として、どうやらお二方は特に私に興味はないらしい。まあ当たり前か。ただ、あの二人から優しさとか温かみを感じることができないあたりがこっちも気に食わない。

「これから会う王子様もそんなんだったら本気で王宮に仕えたくないんだけど…」

 ぼそりとつぶやいた言葉は波打つ水面へ吸収される。仕えてくれるのが当たり前、だって私たちは王族なのだから――そんな考えを持っているのではないかとイシュラーナは感じていた。実際書物で読む王族と臣下の関係とはそのようなものだったしそれが当たり前なのだが、どうにも納得がいかない。

「イシュラーナ」

 名前を呼ばれ、思考を止めて振り返ると父さんが見知らぬ子どもと一緒に立っていた。その子供はイシュラーナと同い年くらいで、銀白色の髪と夜空のような瞳の色をしていた。その子供が王太子だと判断したイシュラーナは臣下の礼をとって本日三回目のあいさつを述べる。

「お初にお目にかかります。ヴァフリーズが義娘、イシュラーナと申します」
「顔を上げてくれ。――初めまして、イシュラーナ。私はアルスラーンだ」

 言われたとおりに顔を上げると、目の前に手が差し出されていた。何となく意図を理解したイシュラーナは立ち上がって手を取る。すると目の前の王子様はうれしそうな顔で笑うのだ。

「よろしく」
「よろしくお願いします、殿下」
「堅苦しいものは要らぬ、気軽に呼んでほしい」

 イシュラーナは一瞬戸惑った。あの二人が親とはとても信じられないこの姿勢だ。想定外の衝撃に思考回路が停止しかけるが、必死に回転を止めないように努める。しかしどう対処していいかわからなかったので、助けを求めてヴァフリーズの方を見た。

「アルスラーン殿下は王宮暮らしになって以来、同年代の友人が少ないのだよ」

 さてどうする?ヴァフリーズの目がそう問いかけてくる。イシュラーナは再びアルスラーンへと視線を戻す。

「…そうなのだ。だからぜひ、私と友達になってはくれないだろうか」

 困ったように笑って言った王子様に、イシュラーナはヴァフリーズの望むことを理解した。

「アルスラーン様、でいいですか?」
「ああ!」

 先ほどとは違う、温かい笑みを浮かべた王子様を見てから、ヴァフリーズの方を今度はちらりと見る。一瞬向けたその視線で、イシュラーナはヴァフリーズが満足した表情をしていることを見て取った。どうやら正解だったらしい。





「さて、殿下。これから剣術の稽古を始めますぞ。イサラ、お主はどうする?」
「ぜひ、やらせてください」
「イシュラーナ、そなた剣を扱えるのか?」

 殿下が信じられないという顔でこちらを見る。まあ無理もないだろう。見た目的には武人からかけ離れた姿なのだから。だからと言ってダリューン兄さんのようになりたい訳でもないが。とりあえず、殿下の疑問には私ではなく父さんが答えた。

「弓の方が得意です。剣は少々かじった程度で、まだ駆け出しというところでしょう」
「…どのくらい強いのだ?」

 殿下は父さんに問いかける。すると、父さんは信じられない事を笑顔で言った。

「そうですな。殿下より素質がありますし、場数を何回も踏んでいるので、殿下が初陣する前に余裕で初陣できるレベルでしょう」
「なっ…?!」
「と、父さん!」

――殿下に向かって容赦がありませんね?!

「ただ、馬術ができない故、当分はお預けじゃな」
「………」
「…そ、そうなのか…」

――私に対しても容赦無かった。

 2人から目をそらすと、殿下が私の両手をとった。顔を戻すと殿下のキラキラした瞳が見える。

「イシュラーナ、これから共に頑張ろう!2人でやればきっと楽しい!」

 改めて感じる午前に会った王族からはかけ離れた綺麗な瞳と、素直な殿下の心にイシュラーナは数回目を瞬く。しばらく固まったあと、自然と笑みが零れるのが分かった。

「はい。よろしくお願いします、アルスラーン様」

 そのあと、ヴァフリーズに厳しく指導されたのは言うまでもない。それにより夕方には王宮の庭で疲労によりぶっ倒れているアルスラーンとイシュラーナの姿が目撃されたとか。

王宮での午後


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