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 イシュラーナがヴァフリーズの養子になって早1か月。その間に怪我はほぼ完治したので、生活必需品を買い込み、服を仕立て、武器を揃えた。今日、イシュラーナはヴァフリーズ、ダリューンと服を受け取りに行くために街へ出かけ、エクバターナ城下を見て回りながら、今まで見たことのないような人の繁栄と物の豊かさに驚いていた。

「恐ろしく人も物も多い街ですね」
「そうだな。パルスは貿易路の中心街だから、東西から商人や旅人がやってきて、様々な物が集まる。食料に武具、娯楽、情報、書物に知識など、多岐にわたって…どうした?」

 ダリューンは赤い目をキラキラさせて立ち止まった従妹に腕を掴まれる。年の割に身長が高いイシュラーナの手はほっそりとしているが、そこから伝わる力はなかなかのものだ。いつか全力を出させてみたい。そんな従姉妹は今いる仕立屋の向かい、本が大量に並ぶ店を指さす。

「ねえ兄さん、あそこにあるのは?」
「ん?ーーあれか。古本屋だ、中古の本を大量に取り扱う店で、本屋で売っているものより古い本が探せるぞ」
「本…!」

 パアッとイシュラーナの周囲が光っているのは間違いでないと思う。行くか?と聞いてみればイシュラーナは行きます!と即答し、古本屋ヘ駆けるように早足で向かう。ダリューンはちょうど仕立屋で精算をすまそうとしている叔父に古本屋ヘ行くことを告げ、後を追いかける。

 好奇心の塊、イシュラーナの行動は早かった。その為に意外と広い店の中をダリューンは歩き回る羽目になった。最初は絵本、子供向け小説のところを見に行ったが、そこには誰もいない。もう少し年齢層を上げたところにもいない。おかしい。

「イシュラーナはどこに行ったんだ…」

 まさか、と思いながら専門書のエリアに足を踏み入れる。生物学、医学、経済学、法学、宗教学…様々な分野の本棚近辺を回るが、どこにもいない。ダリューンがそろそろ本気で心配になってきたとき、兵学のエリアにたどり着く。そして、探していた従妹―イシュラーナがそこにいた。手にもって真剣に読み解いているのは、パルス語で書かれた戦術書。10歳そこらの娘が手に取るものではない。

 ダリューンは思わず口を開けた。しばらく呆けたまま立ち続け、はっと我に返ってこちらを見向きもしない従妹に声をかける。

「…読んでみて、意味が分かるのか?」
「あ、兄さん」

 やっと気が付いたような反応のイシュラーナはわけがわかりません、と苦笑交じりに言った。

「ですが、いつか分かるようになりたいです。昔読んでいたものより楽しいですし、ここにある専門書の中で興味があるのは兵学と料理くらいなので」
「お前なぁ…」

 ダリューンは呆れ顔だ。かわいい従妹が戦術に目覚めそうだなんて…これは将来、女とはいえ出陣させろと頼み込んでくる未来が見えなくもない。

「っていうかイシュラーナ、お前パルス語が読めるのか」
「はい。ルシタニア語はもちろん、パルス語も使えます。前の家ではルシタニア語の日とパルス語の日があって、みんな二か国語は喋れましたね」
「本当に教育熱心な…」

 今まであまり気にしていなかったが、イシュラーナはルシタニア出身にもかかわらず、訛りのない綺麗なパルス語を喋るのだ。王都の人間でも訛りのないパルス語を喋る人間は少なく、王家とその周辺、そして王宮に出入りする貴族や一部の騎士たちだけ。

「教育熱心というか…パルス語は大陸公路の公用語ですから」
「まぁそうなんだがな…」

「ここにいたか」

 ダリューンが従妹の才と好奇心に驚きと悩みを同時に抱えた時、仕立て屋にいたはずのヴァフリーズが紙袋を持ってやってくる。ヴァフリーズはイシュラーナの抱えている本の表紙を見て、ダリューンと同じように驚きの反応を返した。そしてしばらくフリーズして復活すると、紺色の髪の娘へ問いかける。

「イシュラーナ、お主勉強は好きか」
「好き、というか、自分の好きなことにはとても興味がわきます」
「うむ…それはどうする、買って帰るか?」
「いいのですか?」
「ああ。いいとも」

 やったー、と本を持った両手を上へ掲げて喜ぶ義娘を見て、老騎士は甥に肩をすくめて見せる。

「ダリューンよ、もしかしたら我が家初の軍師が誕生するかもしれん」
「いいえ、叔父上――才と好奇心の向くところによってはそれこそ我が家初の文官ですよ」

 若い騎士と老騎士は、かわいい従妹/義娘の姿を見ながら、彼女の未来を考えた。

才と好奇心の向くところ


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