御陵
【注意点】
・月刊少年ガンガン10号までのネタバレ
・捏造過多
・夢主固定設定あり
「すぐ戻るのか」と御陵が苗字名前を呼び止めた時、もう外は明らんでいた。名前は腕時計に視線を落とし、「一旦寝ようとは思ってます。帰りは新幹線を取るので……」と答えた。
「そうか……無理をさせるな」
「いえ、仕事ですから……」
「なにか食べてくか?」
「SAで夜食は取ったので大丈夫ですよ」
「タピオカあるぞ。流行ってるだろう」
名前は閉口する。いえ、流行ってるかは……とか、もういい加減寝たいですとか、一気に沸いて出てくる台詞が喉奥で詰まっていた。透明で小さい、ココナッツミルクに浸されたタイプのタピオカは割と好きな部類であったので、少し揺れたのもある。名前は数秒の沈黙の後、「では、お言葉に甘えて」とカウンター席の端っこに座る。市井向けの仮面とはいえほぼ毎日厨房に立つ御陵は、何かと料理という形で部下を労う事が多かった。程なくしてカウンターに置かれた食器を手にとり、黙々と食べ始める。
「次の計画はあるんですか?」
「お前が話した『田寺』の行方を探らなければな。ここ最近の騒動で東村側も動き出すだろう」
「私はどうします?」
「お前は影森の監視に注力してくれ。アキオ周りで動きを変えるかもしれん」
「かしこまりました」
店内はまだ眠りについていて、食器が擦れる音がいやに響く。名前は元々能動的でもなく、社交的でも無い。朗らかな笑顔や、快活な彼女がそういう表情を見せる相手は、取り入って利用するか、生まれた時から隣にいた家族だけだ。それは御陵もよく知っていた。
解があれば。
そんな魔法の呪文をかけてやらないと、すぐにでも折れてしまいそうだった。ツガイも持っていなければ腕が立つわけでもない。兄の代わりにもならないただの女に藁を与えてやった理由は、御陵にしか分からない。
兄が呪いにかかって死ぬまで伏せているのもどうしようもない一族のしがらみも自分のものにはなり得ない人生も未だに因縁と御伽話に囚われてる東も西も全部全部全部。解があれば・・・・・。双子がいれば。全部上手くいきますよね?貴方がたが手に入れたら、使わせてくれますよね?枯れ木のような腕に縋られた御陵に許された選択肢はひとつだけだった。
「兄の具合はどうだ」
「今は安定してます。ゆっくり衰弱している事には変わりないですが」
「そうか」
「急がないと、ですね」
ごちそうさまでした、と手を合わせる。ココナッツソースまで綺麗に平らげた空の食器を御陵が受け取ると、「じゃあ、そろそろ戻ります」と一礼して名前は店の引き戸を開けた。いつか裏切るんじゃないか。と誰かが声を潜めた。名前にとって、西だの東だのはどうでもよく、何よりも大事なのは家族だけなんじゃないか。そんな当たり前の事を、口には言わずとも、皆おおよそ察している。それでも、その時が来るまでは……。きっとなんでもするのだ。御陵は名前の狂気こそを信じていた。
大丈夫よ兄さん。私がなんとかするから。解があればなんでも上手くいくから。
私が解放されないのに、一抜けなんて許さないから。