ファムファタルは路地裏で笑う



 私の実家はお弁当屋さんだ。
 大手チェーンとかそんなモノではなく、路地の一角にこじんまりと佇んでいる、昔ながらの常連さんに支えられているようなしがないお店。ここに来るのは見知った顔ばかりで、大抵店主の父やお婆ちゃんの顔見知りだったりして、大事なお客さんだとは分かっているけれど、絶賛JK謳歌中の私にはつまらない相手だったりする。社交辞令と特に親しくもないのに聞かれる学校の近況を話しながら、私は弁当を売り続ける。本当は店番よりも英語の勉強をしたい。いい大学に行って、年収も両親の倍以上稼げるようになりたい。私はそんな思いを秘めながら放課後、休日に店のカウンターに立っていた。
 ……が、最近は少し違った思いで此処に立っている。常連さんの相手をしながら、今か今かと待ち構えている。今日は来てくれるだろうかと、まるで少女漫画に出てくるヒロインみたいなコトを思いながら、私はある人を待っている。

「こんにちは」
「あっ!マキマさん!こんにちは!いらっしゃいませ!」
「こんにちは名前ちゃん。今日も元気だね」
「マキマさんも、お、お元気そうで」
「うん」

 高校創立記念日の昼、待ち人来たる。
 スーツにーー公安の制服に身を包んだ女の人。凄い偉い(らしい)デビルハンターのマキマさんが、ひょっこりとやって来た。店番しててよかった。

「今日の日替わり弁当はなに?」
「白身魚のフライと、豆腐ハンバーグです!あ、あと今コロッケ弁当が出来立てで」
「じゃあ、コロッケ弁当にしようかな。あと……メンチカツをみっつ」
「かしこまりました!」

 私は自分でもどうかと思うくらい元気な声で応じる。絶対先輩への挨拶よりもデカくてちょっと恥ずかしくなるが、マキマさんは特に何も言わないので別にいいか、と思っている。マキマさんは結構ガッツリ食べる人なのにスラリとしていて無駄な肉があるように見えない。やっぱりデビルハンターは重労働なのだろう。
 マキマさん。3ヶ月前ぐらいにこの店でお弁当を買ってからお気に入りになったらしくリピーターになってくれている。初めて出会ったのはその3ヶ月前。その絹みたいな赤毛と惹きつけられる瞳と笑顔に私は完全に射抜かれてしまった。見事なぐらいの……一目惚れというヤツだろう。
 けど私はマキマさんと恋人になりたいとか、そんなコトは思わない。ただ美味しいお弁当を食べてほしい、この店に時々来て、少しだけお話しして「こないだのも美味しかったよ」と言ってほしいだけ。この人に沢山美味しいご飯を食べてほしい!その思いが爆発して、私はマキマさんが初めてお弁当を買ったその日に厨房に立ちたいと懇願した。今はやっとお弁当に卵焼きを入れるのを許されたぐらいで、まだまだだとお父さんに笑われているけれど。

「そういえば、この前買った唐揚げ弁当、卵焼きの味が少し違ったね」
「え、あ、はい。私が……作ったんです」
「そうなんだ」
「お、美味しくなかったですか?」

 恐る恐る聞くと、マキマさんはふっと笑って「すごく美味しかったよ、私、味が濃いのが好きなんだ」と言った……はず。聞き間違いじゃなければ言ったはず。私の脳はそう判断した。つまり、褒めてくれた!

「あ、あ、ありがとうございます!」
「お店の手伝い、頑張ってるんだね。名前ちゃんは偉いね」
「はわわ」

 また褒められた。どうしよう、頭がパンクしそう。きっと今の私の顔は茹でたタコみたいに真っ赤で、汗がダラダラ流れているだろう。いや不潔すぎか?せめて手汗はどうにかしようと必死でエプロンに手汗を擦りつけ、私は震える手でビニール袋にコロッケ弁当とパック詰めしたメンチカツを詰め込む。マキマさんは公安の偉い人で、優秀な人を育ててきた(らしい)ので、きっと褒め上手なんだ。だって卵焼き、あんまり評判良くなかったから。

「どうぞ!」
「ありがとう」
「あ、あの」
「うん?」
「お仕事、頑張ってください!応援してます!」

 マキマさんは「ありがとう、名前ちゃんも勉強がんばってね」と言って、ビニール袋を持っていない手を振って大通りの影へ消えていった。デビルハンターの仕事が大変なのは知っている。親戚のおじさんの友達がデビルハンターになって半年後に死んだのを思い出すと、いつ死んでもおかしくないなと思ってる。
 けどマキマさんは、なんていうか、死ぬ所が想像できない。公安本部が爆発しても、あの綺麗で可愛い笑顔のまま、こんにちは名前ちゃんなんて言ってくれる気がする。……勿論それは願望で、もしかしたら明日にでも死んでしまうかもしれないけれど。
 だからこそ、早く料理が上手くなって、なんでも作れるようになって、お弁当丸ごと作れるようになって、マキマさんに食べてもらいたい。大変なお仕事だし、きっと私には想像つかない程辛い事もあっただろうから、お弁当で幸せな気持ちになってほしい。ちょっとでも「美味しい」って思ってもらいたい。

 この野望が大成するまで、絶対悪魔なんぞに殺されてたまるか!


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