アナザーループワールド | ナノ




何かが起こるのは

いつも突然である。









アナザー・ループ・ワールド(12)











ガガ…、ガガガ…





「!」




はっとして振り返った。




「りんちゃん?どうかした?」

「う、ううん…何でも、ない…」



家庭科調理室に向かう為、渡り廊下を奈緒子ちゃんと歩いていると背後に妙な音と視線を感じて振り返ったが、





「(何も、いない…?)」




「? りんちゃん、遅れちゃうから早く行こ?」

「…うん」




何故だか、全くわからない。

でも最近、何処からか視線を感じるようになったのだ。何だかじっと見られてるような、変な…感覚。

そして、たまに聞こえる重い金属を引きずるような、ガガガ…というあの音。


視線と音のする方を見ても姿は見えない。



一体、何なのだろうか。



「………」



奈緒子ちゃんの背中を見てからもう一度何もいないであろう後ろをゆっくり振り向いてみる。




視線はない。




ただ遠くの方でガガガ…、とかすかに金属の音がするだけだった。





「(まさか、)」



嫌な胸騒ぎが、私を支配し始めていた。























「木ノ下もか?実は俺もついこの間から妙な視線を感じるんだ」

「え、柳君も?」


水曜日の放課後。
私が図書室の貸出カウンター当番の日。相変わらず利用者の少ない図書室でここ最近気になっている視線の事などを話すと柳君もどうやら同じモノを感じていたらしい。


「それに木ノ下の聞いた金属を引きずるような音も聞こえた。多分俺達が感じた視線は同じ奴のモノだろう。そして恐らく…木ノ下の予想通り妖怪、だろうな」


柳君はパラパラとめくっていた本をパタンと閉め「これの貸出を頼む」と言いカウンターに置いた。


「…やっぱりそう思う、よね」


私は置かれた本を手に取り貸出処理をし柳君に本を渡した。
もう話ながら事務的処理をするのには慣れたもんです。



「――あぁ、感じる視線が人間のモノとは違う気がしたからな。
…不快な視線だ」

「………」



同感だった。


嫌な予感、がした。


あの視線の持ち主は多分怖い妖怪、なんだと思う。


私は自然とスカートの裾をぎゅっと握ると顔をあげ柳君を見た。




「…柳君、」

「なんだ?」

「私がこの前あげたお守り…、その、邪魔かもしれないけど出来る限り…持ち歩いて欲しい、の」

「これか?」


柳君はブレザーの胸ポケットから私が作ったイビツな形のお守りを取り出し見せてくれた。

ちゃんと持っていてくれた事に私は少し嬉しくなった。



「うん、中に入れてある呪符が結界みたいになって柳君を守ってくれるはずだから…」



私は四六時中柳君と一緒に居られるわけじゃない。出来るかぎり一緒にいて怖い妖怪から守ってあげたい、とは思うけど…中々そんな訳にはいかない。

もしも…、もしも柳君に何かあったらと考えると…、すごく怖くなる。


私の大事な友達、だから。




「あぁ、わかった。絶対に持ち歩く」

「柳君…」

「それより木ノ下は卑下し過ぎだ」

「え…?」

「邪魔なんかじゃない。これを貰った時、嬉しかった。ありがとう」


柳君は私を見つめて綺麗に微笑むと胸ポケットにお守りをしまった。
…大事そうに。


柳君は嬉しいと言ってくれた。
そんな風に言ってくれた柳君に、多分私の方が何倍も喜んでる。


どきどきとする胸を抑えつつ、お礼を言おうとした瞬間、たまたま柳君の背後に見えてしまった小さな陰に私は思わず苦笑してしまった。



「…木ノ下?」



突然くすくすと笑い出した私に首を傾げる柳君の後ろを指さすと、柳君は不思議そうに自分の背後を振り返り、ピシリと固まった。


そこには間近でテニスボールを今にも投げつけんとするリーヤ君がいたからだ。



「オイコラ、お前は一体何をしている」


『げっ、りん!てめぇバラすんじゃねーよ!』


ちっと舌打ちをするとリーヤ君はテニスボールを柳君に向かい軽く投げつけると柳君はそのボールを顔の横でぱしっと見事キャッチした。


「お前の悪戯は日に日にオープンになっていくな。最初は陰からやらかしていたくせに」

『うるせーなぁ、コソコソすんのは面倒になったんだよ』

フンッと鼻を鳴らすとリーヤ君は腕組みをし目を反らした。

「あ、…ねぇ、リーヤ君。ちょっと聞きたい事があるんだけど…」

『アン?聞きたい事?』

「(前から思っていたがコイツは跡部みたいなしゃべり方をするな…)」



「うん…。あのね…最近、私と柳君の周りに…妖怪か何か、見なかった…?」


「あぁ、成る程、な。妖怪の事は妖怪に聞くのが1番かもしれないな」


柳君は私の質問の意図を読み取ったのか、納得したように頷いた。


「リーヤ、お前は常日頃から俺達に付き纏っているんだからその時に何か見たりしなかったか?視線や金属の引きずるような音はするんだが、どうにも姿が見えないんだ」

『付き纏ってるってなんだよ!つーか何でそんな事俺様がわざわざ教えなきゃなんねーんだよっ』

「俺とお前の仲だろ」

気色わりぃ事言ってんじゃねーよ。今ゾッとしたぞ』



何だろう。このふたり、絶対仲が良いだろうなと思うのは私だけなんだろうか…?
どうにも良いコンビに見えてしまう。


『…あー…もう!りんや糸目野郎にも姿が見えないってんなら俺様にだって簡単に見えるわけねーだろ!』


リーヤ君はどこか観念したように声をあげた。



「え、そう…なの?」



『妖怪は妖怪でも姿を消せる奴だっているし、空を飛ぶ奴だっているし、色んな奴がいるんだ。同じ妖怪だからって全部が全部見えるわけじゃねーし、知ってるわけじゃねーんだよ』


そのくらい知らねぇのかよ、とリーヤ君は少し呆れたように頭をボリボリと掻きながら言った。



「…そっか、そうなんだ…」


「妖怪の"世界"というのも色々あるんだな」


『…………』



視線の正体の情報が得られなかった事と、知らなかった妖怪事情を聞き少ししゅんとしているとリーヤ君ははぁっと一つ大袈裟に溜息をついて私達を見た。


『…ったく。…ちゃんと姿を見たわけじゃねーけど、お前らの周りをうろついてる妖怪ってのは確かにいるぜ。多分相当ヤバイ奴だと思う』


「えっ?」


『きっと妖怪が見えるりんと糸目野郎を狙ってるんだろーな。見えるだけで"力"があるんだし、その血肉を食いてぇって命を狙う奴だっているだろ』



確かに。


リーヤ君の言う通り、見える人間は妖怪に命を狙われやすい。"力"を持つ人間の血や肉、魂を好物にしてる妖怪も世の中にはたくさんいるのだ。

現に私はその為におばあちゃんちで修業をしたんだから。


『特に糸目野郎はりんから貰ったお守りを離さない方がいいだろうな。りんと違って攻撃的な妖怪に対抗する護身術だってもってるわけじゃねーし。…ぶっちゃけ今そのお守りにかなり守られてる部分が多いからな』


「…そう、か」


柳君は噛み締めるようにひとことそう呟くと胸ポケットの中にあるお守りを服の上からぎゅっと握った。


「…ありがとう、リーヤ君。色々教えてくれて」


笑顔でリーヤ君を見てお礼を言うと、リーヤ君は一瞬きょとんとした表情をしたがすぐにかぁぁあっと顔を赤くした。


『な、バッ…!!別にお前らの為じゃねーよ!ただ俺様以外の妖怪が最近辺りをうろついてたから目についただけだっつの!』

「顔が赤いぞ」

『うっうううるせぇな!勝手にひとの顔見んじゃねーよ!!』

「目の前にいるのに無茶言うな」

「ふふ…っ」



ふたりのやり取りに思わず笑い声が漏れてしまう。
顔を真っ赤にしているリーヤ君は可愛くて、大きな声で怒鳴っても怖くなかった。…本人には絶対言えないけど。(怒られちゃう)



「それより、お前も妖怪だろ?お前は俺の命とかは狙わないのか?」



柳君がふっと不適な笑みを浮かべリーヤ君に唐突に尋ねた。


…試すように。


リーヤ君はまたきょとんとし、そして眉を寄せた。



『はぁ?!別に狙わねぇよ。俺様は人間の魂なんか奪わなくったって生きて行けんだよ!』



そこら辺の下級妖怪と一緒にすんじゃねぇ!と言うリーヤ君にきっと嘘はない。



けれど、



「…そうか」



私と柳君はリーヤ君の言葉に一瞬顔を見合わせて、曖昧に笑った。


そして少し前に起こった八木先輩の事件が、頭を過ぎった。


きっと柳君も私と同じ事を思ったに違いない。




『つーか糸目野郎を痛め付けていいのは俺様だけで十分なんだよ!』

「いや、それはそれで困るけどな」

「ふふっ」



柳君とリーヤ君のやり取りに小さく笑っていると突如ガラッと図書室の扉が開いた。
思わずそこに目をやると何となく見た事ある、銀色の髪をした人が立っていた。



「おーいたいた。参謀」


「仁王か」


柳君は少し驚いたように彼の名前を口にした。


あぁ、そうだ。
彼は柳君と同じテニス部の人だ。前にテニスコートで見たことがあったのをふと思い出した。




「そろそろ部活始まるから幸村に呼んでくるよう頼まれてな」

「そうか、わざわざ済まなかった」



すぐに行くから先に行っててくれ、と柳君は仁王君にそう告げると仁王君は「わかった」と短く言い去って行った。



「(…え?)」


去り際、何故か仁王君が私を見てニヤリと一瞬笑ったような気がしたけど…多分…気のせい、だよね…?



「すまない、もう時間のようだからそろそろ行かせてもらう」


「あ、うん」


柳君は本とテニスボールを鞄にしまい「また」と言って出口に向かい歩いて行った




『おいっ糸目野郎!』


が、突然リーヤ君の声に足を止めた。

柳君は振り返ると突然声をあげたリーヤ君に視線を向けた。



『……りんから貰ったお守り、絶対に無くすんじゃねーぞ』


どうしたのだろうか。

リーヤ君はいつもと違ってどこか、真剣な表情で柳君を見ていた。


「……あぁ、勿論だ」


柳君は口元を緩めて笑い、任せろ、と言う風に図書室を出て行った。



「……」

『………』


柳君が図書室を去り、私達の間に静寂が残った。


それを先に破ったのはリーヤ君で、



『……妖怪でも…さ、わかんねぇ事あるけど、妖怪だからこそわかる事も、あるんだ…』



「え…?」





『多分、最近お前らの周りをうろついてる妖怪は……ほんとにヤバイ、と思う』



リーヤ君は眉間にしわを寄せ、柳君が出て行った扉を見つめながら小さく呟いた。



その声が静かになった空間に、


妙に響いて、聞こえた。










『下手したら、マジで死ぬぞ』












ガガガ…、ガガガガガ…







何処からか、
重い金属を引きずるような音が、微かに




聞こえた気がした。













〜ちょっとオマケ〜

「幸村ー、言われた通り参謀を呼びにいったぞ」
「ありがとう。ちゃんと図書室に居ただろ?」
「おー。カウンターにいたアレが参謀お気に入りの子みたいじゃのぉ。初めてみたぜよ」
「ふふ、可愛い子でしょ?」
「でもぱっと見、大人しそうな子じゃな」
「けど下手に手を出したら蓮二に何されるかわからないから気をつけなよ」
「絶対手ェ出さん。まだ死にとぉない」





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だんだん一方的に、尚且つ遠回しに絡まれていく夢主でした。

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