アナザーループワールド | ナノ
私達が暮らすこの地球(ほし)には

いったいどれくらいの

“世界”が存在するのだろうか。






アナザー・ループ・ワールド(10)







その次の日からさっそく柳と鬼の子の攻防戦が始まった。






ガッシャーンッ!


「うわぁぁあ!柳大丈夫か?!」


柳が外を歩いていると突然タイミングよく三階のクラスのベランダから植木鉢が柳の後ろギリギリに落ちたり、





ボンッ!!


「きゃあああっ!!柳君大丈夫?!」


化学の実験中、柳の持つ試験管から突然煙が発生し爆発したり、




ブワッ!


「うぉぉお!?」

「何だ突然!」


部活の仲間と和気あいあいと中庭でお昼ご飯を食べている時に突然突風が吹いたかと思うと柳君のお弁当と飲み物だけが綺麗に吹っ飛んでいたり、


「柳…大丈夫か?」



「……大丈夫だ、問題ない」


そうは言うが内心イラッとしていた。


なぜならその出来事すべてに柳は視界の隅にププッと楽しそうに笑う鬼の子供を見ていたからだ。




けれど彼もただやられてばかりではなかった。


例えば部活中。


「柳、少し打ち合いをせんか」

「あぁ、わかった。ではそこのコートでやろう」

コートのすぐ横に、見学用ベンチがあるコートに真田と入った柳。


ベンチには丸井と仁王が座り楽しそうに談笑していた。
よく見るとそのベンチの後ろからひょこっと顔を少しだし悪戯な笑いを浮かべている鬼の子を見付けた。もちろんベンチに座る丸井と仁王は気づくわけも見えるわけもなく。



「サーブは俺からでいいか?」

「あぁ、いいぞ」


ぐっとラケットを握りお互い構える。

柳がすっとボールを上げ勢いよく打ち込んだ。




バコーンッ!!




「ぎゃああ!!」

「うぉぉお!!!」



柳が打ったボールは相手側のコートに入る事なく、まっすぐにベンチの隅に思いきりブチ当たった。


「ちょ!おま!柳ィィィイイ?!ボールがすっごい勢いでこっち来たんだけどォォオ!!」

「こっわ!!!全力のサーブをこっちに打つってありえんじゃろ!!!!」

「すまん手元が狂った」

手元が狂った?!今の手元が狂ったってレベルじゃねーだろ!!!確実にこっち狙ってただろ!!迷いなくこっちきたぞ!!!」

「すまん手元が狂った」

「えぇえ!!それで許されると思っとるんか?!今の当たってたら確実に気ィ失ってたよ?!えっ?!俺ら何かした?!今のボール確実に憎しみこもってたよね?!」


ぎゃんぎゃん騒ぐ二人を無視し、柳は再び何事も無かったようにサーブを出し満足そうに打ち合いを開始した。
そんな彼の視界の隅には鬼の子供がボールを頭に直にくらい伸びている様が写っていた。



『くっ…くっそぅ…!』

ズキズキと痛む頭を何とか持ち上げ鬼の子供は悔しそうに拳を強く握った。









※※※










『マジ腹立つぜ、あの糸目野郎ッ!!』

ドンっと小さな拳で鬼の子は机を一回叩いた。

「そ…そうなんだ…(だからって私のところにきて愚痴らなくても…)」


私は昼休み、鬼の子と一階の隅にある使われていない空き教室にいた。
奈緒子ちゃんは教室でお弁当を食べている途中で先生に呼ばれて行ってしまったので、ならば誰もいないところでゆっくり読書でもしながら食べようと空き教室を選んだ。


…はずだったのだが、何故か鬼の子と共に過ごす事となってしまった。



話を聞く限り、あれから三日くらいあんな感じで柳君とやり合ってるらしい。
私は柳君とクラスが違うから直接見たわけじゃないのだけども、柳くんのクラスがある方向が最近騒がしいのはきっとこの子が絡んでいるのだろう。



けれども、少し思うのだ。



「…でも、二人とも何だかんだで仲良いんじゃ、ない?」



私はお弁当の蓋の内側に卵焼きや唐揚げなどを少し乗せ、フォークと一緒に鬼の子の前にすっと差し出す。


『はぁ?!お前どこ見て言ってんだよ!仲なんか良いはずねーだろ!』

「そう…、かなぁ?」


鬼の子はフォークを握るとガツガツとおかずを口に放り込んだ。

私はその様子を眺めながら「そうかなぁ…?」ともう一度呟いた。


「それよりリーヤ君、柳君は糸目野郎じゃないよ。柳蓮二ってちゃんとした名前があるんだから…」

『またそれかよ。うるせーな、あんな奴は糸目野郎で十分なんだよ!』


フンッと顔をそむけた彼に私は困り果てた。

柳君の話や、どうして人に憑く力を手に入れたのかという話になると彼は毎回こういう態度になってしまうのだ。


けれど他の事は聞けば少しずつだけど答えてくれた。(勿論柳くんのいないところでだけど…)

この鬼の子の名前は里依弥(りいや)というらしい。
私は何となく呼びやすいので"リーヤ"とカタカナ読みをしている。
それでもいい?って聞いたらリーヤ君はいいよと許可してくれたのでそう呼んでいる。


そしてリーヤ君は一角鬼(いっかくき)と言うあまり見かけない珍しい鬼の種類らしく、確かに言われてみれば鬼は2本の角が一般的かもしれないがリーヤ君には角が一本だ。そして何より決定的に違うのは額にあるその1本の角以外、見た目はほぼ人間と変わらないという事だ。いや、むしろ見た目は人間そのものだ。確かに昔、祖母から一角鬼の事は少し聞いたことがあった。一角鬼は、本当に珍しい鬼なのだ、と。



「リーヤ君の、ご両親は?」

『いねーよ、そんなの』

「え」

『とっくに死んでるし、もう覚えてねぇーよ』

「身寄り…、とかは?」

『んな事お前に関係ねぇーだろ?!』



『しつこいんだよ!』と言ってから静かに目を伏せたリーヤ君は何だか寂しそうに、見えた。



彼は一体どこで、



どうやって、



過ごしてきたのだろう。




この、小さな身体で。









私には妖怪は見えても、妖怪の“世界”というモノはいまだによく、わからない。

私達人間には私達独特の社会があり、いわばそれが私達の、私達が作り上げてる世界。


じゃあ妖怪は?


妖怪の、“世界”は?




私は小学校2年生から6年生まで九州にいて、兄さんと共に祖母から妖怪から身を護る術(すべ)など護身術的なモノを教わったり、一部の妖怪と触れ合ったりした。


それなりに彼等に関わってきた"つもり"だった。


それでも妖怪は、あまりよくわからなかった。人間とあまり変わらない処もあったり、全然違ったりも、する。

やはり人間とは少し違う、のかな?みたいな中途半端な感じしか私にはわからなかった。


私は知ってるようで、何も知らないのだ。

結局は、何も。

まったく、知らないのだ。


もしかしたら"人間"の私には一生わからない事なのかもしれない。


でも、リーヤ君の、あの寂しそうな瞳が私から離れないのだ。

妖怪はもしかしたら寂しいとか孤独とか、そういう事を感じなかったとしても、"リーヤ君"は違うかもしれない。

人間に色々いるように、妖怪にだって色々あるかもしれない。


この3日間、リーヤ君と関わっていくうちに何だかほっとけなくなってる私が、いた。

少しづつ、自分自身の事を話してくれるリーヤ君が気になっている私が、いるのだ。







『……りん?』

「えっ?」

『どーしたんだよ、ぼーっとしてよ』

「あ…ううん、何でもないの。ごめんね」




私の顔を覗き込むリーヤ君の金色の瞳が、太陽の光できらきら輝いて綺麗だった。




「あっそうだ!リーヤ君!」

『あ?』

「ちょっと柳君に渡したいものあったの。一緒に…行かない?」

『はぁ?!何で俺様が糸目野郎のところなんかに…!』

「お願いします、リーヤ君」


そう言って私が手を合わせて微笑むとリーヤ君はほんの少し頬を染めて目を反らしながらも『……しょーがねぇなァ』と言ってくれた。




「…へへっ」

『…何だよ』

「ううん、何でも、ない」




わざと睨んで私を見るリーヤ君がなんだか可愛い、と思ったけど怒るからコレは本人には言えない。




けれど、思うのだ。



この鬼の子と一緒に過ごす時間が増えるたびに、思ってしまうのだ。

こんな素直な子が何故人間に取り憑くような事をしたのか。その事が疑問で仕方ないのだ。きっと、何か理由があったんだろう。

深い、"何か"が。



この小さな鬼に――――、








『おいりん、あと少しで昼休みってヤツ終わるんだろ?早く来いよ』


「う、うん!待ってリーヤ君…!」


『…お前トロ過ぎ』


見た目は小さな子供だけど、中身は少し大人びてるリーヤ君の、少し困ったように笑った表情は、とても、綺麗で可愛かった。











その心で君は一体何を思うのだろうか

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