ダブルジョーカー | ナノ
お昼休み。

私は紫原君の言った通り体育館裏に来てみた。

けれどもまだ紫原君はいなかった。

私は体育館の壁に背を預け紫原君を待つことにした。

私の隣には武藤さんがいて、武藤さんも私同様体育館の壁に背を預け同じように空を見上げた。


「……武藤さん、私初めて誰かに呼び出されました」
『だろうなぁ。俺だってお前が自分の教室以外の場所にいるの初めて見たしな』
「うふ」
『別に褒めてねぇからな』
「それよりも何なのでしょうか…話したい事って……」
『……さぁな、』と武藤さんは興味なさ気に呟いた。

すると突然のっそりと大きな影が現れた。

紫原君だった。

隣で武藤さんが『こいつデカッ!』と声をあげた。


「あー、えーっと…、遅くなって…ごめんね?」
「いえ…お気に、なさらず」

紫原君は私の前に来ると、きょろきょろと辺りを見渡した。

そして私を見ると

「ねぇ、アンタ…、さっき誰かと喋ってなかった?」
「え、あ…、はい。武藤さんと……」
「武藤さん?」

紫原君は首を傾げた。

「はい、今ここに…」

私はにこっと笑い(笑ってるつもりで)手の先を武藤さんの方に向け「こちらが武藤さんです」と紹介した。

「…………」
「………………」
「…………ごめん、見えないや」
「あ」
『五十嵐、お前バカだろ!幽霊を普通に紹介してんじゃねーよ!』
「す、すいません…」

怒鳴る武藤さんに私は慌てて謝った。

そんな私を紫原君はじっと見て言った。


「アンタさ、ホントにユーレー、見えんの?」


「え…、あ、はい…、一応…」

「嘘じゃなくて?」

私はコクリと頷いた。



「ホントのホントに?」




  (嘘じゃなくて?)





彼の目はそう言ってるように、見えた。



「……っ、」


彼は、紫原君は…、とても大きくて。彼の目が私を見下ろしてて、その目に私は思わずビクリとした。彼の威圧感は、本当に凄くて。
少しでも変なことを言ったら捻り潰されるんじゃないかと思うくらいに、紫原君の目は私を品定めしつつ、色濃く疑っていたのだ。

『つーかよ、呼び出しといていきなり何なんだよコイツ。俺ちょっとムカつくんだけど…!』

武藤さんは引き攣った笑顔で紫原君を見てぐぐっと拳を握った。
けどそんな武藤さんを紫原君が見えるはずもなくて彼の視線は私のみを見ていた。

私は武藤さんにどうどう、と言って馬の如く落ち着かせてから、覚悟を決め紫原君に体を向き直した。
そして胸元に右手を置きぎゅっと握ると震える声で言った。


「私…、絶対嘘は…付きません」


だから、嘘つきだけとは言わないで、

ほしかった。


「幽霊の事でも、何でも、決して嘘は…、付きませんから……、」





だから、『嘘つき』とは




言わないで。






「…………」



紫原君はそんな私をじっと見てからゆっくり口を開いた。


「……じゃあさ、"コレ"見える?」


「え?」


私は紫原君の突然の問いに俯いてた顔をあげた。

紫原君は自分の右腕を指さしていた。

「最近すっごくダルいんだよね。もしかしたら何かに取り憑かれてるんじゃないのーとか先輩達に言われちゃってさー」

紫原君は右腕を摩った。


「どう?ユーレー、…見えちゃったり、する?」

「ゆー、れー?」

まさかそんな事を言われるなんて思いもしなかったので私はきょとん、としてしまった。でも慌てて紫原君の右腕を見た。



「…………」



何も、見えない……?


もう一度よくじーっと見つめた。




やっぱり、何も見えなかった。




「す…、すみません、紫原君の右腕に幽霊は、見えません…」
「……ふぅーん…、そっか」

紫原君はそう言うと右腕をぐるぐると回した。


「まぁ…そうだよねー、都合よく見えるわけないしオレにユーレーが取り憑くとかあるわけないよね」
「すみ…ません、お役に、立てなくて……」
「んーん、別に大丈夫」




"別に最初から期待なんかしてなかったから"




そう言われているようで、何だかとても、




悲しくなった。




「本当に、すみません…幽霊は常に見える訳ではないので…。お役に立てず、本当に申し訳ありません…、本当に、すみませんでした…」


本当の本当に、申し訳なかった。わざわざ私を頼ってきてくれたのにも関わらず何も出来なかったのだから。

私は紫原君に深々とお辞儀をし、彼にゆっくりと背を向け歩き出した。



けれどもひとつだけ言い忘れた事があったのを思い出し、私は足を止め彼に振り返った。

紫原君もそんな私に気付きこちらを見た。



「あの…ひとつだけ…、言い忘れていたんですけれども…、」
「? なに?」


「幽霊は見えなかったんですが…赤と黒が混じったような靄(もや)みたいのが少し右腕に掛かってるんで、どうぞお気をつけて下さい……、特に赤い靄はとても不吉ですので…、それでは……」



「ねぇ、何でそれ先に言わないの?」



「え?」




再び紫原君に引き止められたので、もう少し話が長引きそうな感じです。


ディスコミュニケーション


(ちょ、え、靄って何?ねぇ、靄って何?)(え?え?)(なんかめんどくせぇ感じになってきた…)



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