爽やかな朝に、何故かざわつくこの教室。
私の、クラス。
「………」
「………………」
現在私の目の前にとても大きな男の子がいます。
前の席の子の椅子に座って私を見下ろしているのです。勿論私と同じクラスの子ではありません。
「アンタが霊感少女?」
「霊感があるかどうかはわかりませんが…何故かみなさんは、そう…呼びます」
「ふぅーん……」
知らないはずの男の子に何故だかものすごく見られています。同じ作りの椅子に座っているはずなのに何だかものすごく見下ろされているのです。
そしてクラスのほぼ全員から好奇の目で見られ、ふと廊下の方を見てみると『何だ何だ』と他のクラスの人まで見学しにきているではありませんか。
普段からたくさんの人に見られる事のない私の心臓は今とてもドキドキしています。
そう、これはまるで――…
『わぁ!見て見てお母さん!パンダさんがいるー!』
『あら本当、可愛いわね』
『でもアイツ笹ばっか食べてて全然動かないぜ?!つまんねーし!おいパンダ!笹ばっか食ってねーで何か芸のひとつでもしてみろよ!』
バンバン!←ガラスを叩く音
『(うるっせぇなガキが!オレは今食事中なんだよ食事中!!ちょっとは黙ってろや!!パンダの食事シーンを見れただけでもちったぁ喜べや!!)』
そう、これはパンダ!
きっと日々たくさんの好奇な眼差しを一身に受けるパンダと同じ気持ち…!
「…ちょっと、霊感少女さん?何だかぼーっとしてるけど大丈夫ー?」
目の前に座る大きな男の子は首を傾げ不思議そうに私を見た。
「はい、すみません。私実は今パンダなんです……!」
「ごめん全然意味わかんないんだけど」
「私、小さな時東京のあの有名な動物園でパンダを見たんです…アレをつい思い出してしまいまして……!うふふ…」
「理由聞いても全く理解出来ないんだけどどうすればいい?(笑い方怖いな…)」
ちなみにガラスを叩いたのは私の兄でございます。あの時のパンダの迷惑そうな顔はあれから何年も経った今でも忘れられません。
「っていうかさーオレ、アンタに話があるんだよね」
「話…ですか…?」
今度は私が首を傾げる番だった。
「あー、でもココだといっぱい人が居て話しずらいから……」
ふいに彼の顔が私に、近付いた。
目の前の彼はすっと整ったその顔を私の耳に近付け
「……昼休みに、体育館裏で」
そう小さな声で囁いたのです。
その途端周りからは「キャーッ!」という女の子達の叫び声が沢山響きました。
でもそんな事はどうでもよいのです。
彼の喋る息が耳に当たり妙にくすぐったくて、私は思わずどきりとしてしまったのです。
「…………」
ゆっくり離れる彼の顔を長い前髪の隙間から見ると彼も私をじっと見ていて。
「…じゃあ、絶対に来てよね。待ってるから」
そう言って彼は椅子から立ち上がった。
そしてそのまま背を向け教室を出るかと思いきや再び振り返り私を見た。
「オレ、紫原敦っていうんだけど。アンタは?」
「え……、あ…、五十嵐、恵美…です」
「ん、五十嵐サン、ね。じゃあ、また後でねー」
そう言って彼は、紫原君は今度こそ教室から去って行きました。
それから私は紫原くんが去って行った方を見て呆然としていて。
「…紫原、くん……?」
ざわつく教室で小さく呟いた私の声は、誰にも聞こえなかった。
「(大きな、人)」
何故だかその時、彼の後ろ姿を見て妙に不思議な感じがしました。
これから何か起こりそうな、
そんな予感が。
星縫う眸
(これが私と彼の初対面、でした)
「五十嵐恵美、か…」
懐から取り出したスナック菓子を食べながらのらりくらりと廊下を歩く彼の声も、同じく誰にも聞こえなかった。
「(変わった子)」
(いうなれば、運命の出会い)