ダブルジョーカー | ナノ
私の体質は昔からのものだった。というか、多分産まれた時からのもので。


「(あ…、)」


授業中、廊下から恥ずかしそうに教室を覗きながら手を振る小さな男の子と目があった。

私はその可愛らしい男の子にニタリと微笑んで手を振り返した。

「うふふ…」

その瞬間教室内の温度が急激に下がった事に私は気付かなかった。


「(うぉぉおお…!!五十嵐が笑った!手振ってる!!絶対あそこにいるんだ!!)」

「(ひぃぃぃい!!絶対あそこにいる!!廊下から教室を見てる何かがいるんだ…!!!)」

教師含めクラス中の素肌に鳥肌が立った事にも私は気付かない。

「ちょ…五十嵐さん…?いきなりどうした…?何か…あったか?」

なので教師が勇気を出して私に声をかけた事なんかも知る由もないので、私は普通に答えた。

「あ…、いえ…。廊下から可愛らしい男の子がこっちを見てたもので……」

「え…?! お、男の子…?そ、そそそうなの…?!(マジかよ!)」

「えぇ、でも今は…教室の1番後ろで遊んでいるのでお気になさらず授業続けて下さい…うふふ」


「「(えぇぇぇええ…!!この教室で遊んでるのー??!!気にしないでとか言われても無理なんですけどーー!!!)」」

教師含めクラス中の気持ちが一体となった事にも勿論気付かない。







私は五十嵐 恵美という者で、この春から陽泉高校に通う花の高校1年生です。

もうお気づきかもしれませんが私は他人にはあまり見えない"幽霊"というモノが見えてしまう人間です。幽霊自ら私に話かけてきて、よくお話もするのできっと霊媒体質というヤツなのかもしれません。
多分これは産まれた時から私にくっついてる付属品のようなもの。私にとっては普通な事なのです。
でも常に幽霊が見える訳ではありません。時々ふとした時に見えるのです。
けれどもやっぱりいきなり幽霊さんに現れられると驚く事も暫しあります。

なので急に驚いたり笑ったり一点をじっと見てしまったりとしてしまう為、周りの人に気味悪がられたりも多々あります。それ故幼少期から今に至るまであまり友達には恵まれませんでした。

そして中学の時、何故か私の名前が広がる出来事が起こりました。

友達が少ない私は教室でひとり本を読んでいました。そんな時同じクラスの女の子が私に近寄ってきてこう聞いてきたのです。


「ねぇねぇ…、五十嵐さんって…たまにどこか何もないところとか見てたりするけど、もしかして霊感とかめちゃくちゃあったり…するの? 何か見えてたり、とか…」、と。


私は冷静に考えた。
霊感、とはなんぞや。
"霊"を"感じる"、だから霊感?だったら私は霊を感じる事はあまりないと思う。だって"感じる"前に"見えて"しまうから。そして私は答えた。


「…霊感というのが私にあるかどうかは……わかりません。でも私は霊が見えます。たまに話したりもします…結構みんな優しかったりするんですよ」、と。

その瞬間教室中の空気がピシリと氷の如く固まった事を私は今でも昨日の事のように鮮明に覚えております。

あの日から私は『霊感少女』と言われるようになったのです。





「おぉ、今すれ違ったのってもしかして1年の『霊感少女』か…?!噂では聞いてたけど生で見るとすげぇな…!」

「あぁ、霊感少女ハンパねぇ!マジ怖いんだけど…!幽霊見えるってホントなんかな?!」

それは高校に入学してからも健在です。



あぁ、そういえばこの前たまたま知り合った幽霊さんがいます。その幽霊さんはこの陽泉高校によくいる男子高校生の幽霊で、『武藤さん』といいます。
知り合って間もないですが武藤さんはとても優しくて、社交性がなく友達のいない私をとても心配してくれているのです。何だかお兄さんみたいな存在だな…と密かに思っていたりします。
そんな武藤さんに私の最近の悩みを相談してみました。

「あの…武藤さん、高校生になったはいいのですがどうもクラスメイト達にうまく話しかけられないんです…。だから友達が今だ出来なくて……私どうしたらいいでしょうか……」

『そりゃ友達出来ねぇだろーよ。まずお前見た目がこえーもん! 無駄に影あるし、更に髪真っ黒でだらだら長いし、前髪だって目が隠れるくらい長くっちゃ周りだってこえーだろ!お前、自分が呪いの日本人形みたいな見た目してるの気づいてねぇだろ

「え…私、日本人形みたいですか…?(ぽっ)」

『別に微塵も誉めてねーよ?』

「え」

『とにかくお前に友達が出来ねぇのはその見た目が第一の原因だな。お前が急に現れると俺達幽霊の方が逆にビビる

「そ、そうなんですか…?そんな事ないと思いますけど…」

『なんで変なところで無駄にポジティブなんだよお前。つーかお前の笑い方も友達が出来ねぇ原因のひとつだな。一回ちょっと笑ってみろ』

「え……、あ…、こう…、ですか…?うふふ…」




ニタァ…




『こっわ…!お前こわ…っ!!うふふって笑い声と表情が合ってねぇよ!!ニタァ…じゃなくてもっとニコッて笑えよ!ニコッて!!』


「す…すみません…精進いたします…!」



男子高校生の幽霊、武藤さん曰く、どうやら私は見た目が怖いらしいのです。

真っ黒な長い髪に目元が隠れるくらい伸びた前髪。
そして笑い方。

でも髪の場合、もうずっとこんな感じだったので、この方が落ち着くのです。これを切るのにはずいぶんな勇気がいります。
あぁ、どうしましょう…。

まぁあとでそれはゆっくり考えます。

笑顔の事もあとで考えましょう。





ああ、私のお友達を作ろう大作戦と、自分を少しでも変えよう大作戦の二つは前途多難なようです。


けれどせっかくの高校生活。人生一度きりなんですから楽しく過ごしたいものです。


これからの新しい生活に胸をときめかせ私は今日も人とは違う世界をこの目に写し、私なりの日常を過ごすのです。








はじめまして、私が『霊感少女』という者です。


(どうぞ、お見知りおきを)


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