Episode1 | ナノ



私は、人類じゃなくて斑類?

え、何?どうゆう事?

て言うか斑類って何?柳君は何を言ってるの?勉強のし過ぎでついに脳細胞が破壊されつつあるのかしら……。どっか良い病院紹介出来たら良いんだけど…。


「何度も言うが俺の脳細胞は壊れていない。と言うかお前の心の声ダダ漏れだぞ。全然隠れてないぞ」







弾丸とキスマーク






「だって柳君、分かりやすく説明するとか言って全然意味わかんないんだもん。柳君本の読み過ぎだって。いい加減現実見なよ」

「お前がな」

本気で心配しているのに呆れたようにため息をつかれてしまった。酷い。

「断じて俺はイカれてもいないし、嘘など付いていない。第一、昨日まで人間がすべて動物に見えていたと言うお前が俺をイカれたと全否定出来るのか?」

「そ、それは…まぁ、そう、だけど…」

柳君の正論に言い返す事など出来ずに私は指をもじもじとさせた。
確かに私の目にはありえない事が起こっていた。でもいきなり他人から真面目な顔して非現実的な事を言われたって信じられない訳で。

うだうだしている私に痺れを切らしたのか柳君はどこからか、あるモノを取り出し私の前に差し出した。

「? これは…?」

「とりあえずこれを読め。詳しい話はそれからだ」

不思議に思いながらもそれを手に取り、まじまじと見つめる。
それは昔よく誰もが手にしていたであろう馴染みのある厚紙で持ち運びに便利な手の平サイズで子供の時によく読んでいた……


絵本。



「え、何コレ。絵本って。柳君私の事バカにしてる?!対象年齢6才以上って書いてあるんですけど?!」

「とにかく初心者にはまずコレが一番だ。いいから読め」

バカにしてる事は否定しないんだね!私ビックリ!

ついにはコイツうるせぇなって顔されたので柳君に言われた通り私は渋々絵本を開いた。










学習絵本
 《よいこのまだらるい》

対象年齢6才以上



*まだらるいの進化となかま分けのおはなし*

「やぁ!ボクはフクロウ博士!今日はボクと一緒に斑類の勉強をしましょう」


ほ乳類はいくつかのグループに分けることが出来ます。それをさらに「目」といいます。「目」はさらに「科」というグループにわけられます。

人間は「霊長類」の「ヒト科」となります。
霊長類は「サル目」とも呼ばれています。

わたしたちの先祖は大昔サルからヒトへと進化してきたと考えられているのです。

ヒト科はさらに人類と斑類(まだらるい)に分けることができます。

わたしたちの先祖がサルからヒトへ進化する途中DNAの中で別のほ乳類や、は虫類の遺伝子が「斑覚醒」したまま進化したヒト科を斑類というのです。


*なかまをおぼえよう!*

人類:猿人
斑類:猫又、犬神人、熊樫、蛟、蛇の目、人魚

注意!
猿人は斑類を見分ける能力がありません。
ですから、猿人にとって他のヒト科の人々は猿人に見えているのです。
ですが、猿人には斑類と違って素晴らしい能力があります。たくさんの強い子を作ることが出来るのです!
「ヒト」は、それぞれ色々な素晴らしい能力を持っているのです。


「みんな、おなじニンゲンだから仲良くしましょう!」


おわり*








「…………」

「どうだ、わかったか」

さすがにいきなりはわかんねぇよ

これを一発で理解出来たらすごいよ!私は絵本の内容に青ざめながらも、もう一度ページを戻し読み返した。この内容は…一体…!

「その本の中に猿人は斑類を見分ける能力がない、と書いてあっただろう。その反対で斑類は猿人か斑類か見分ける能力がある。分かりやすく言えば猿人は精神構造が排他的で自分以外を認めない。"それ以外"見えないからだ。もっと分かりやすく言えば……そうだな、霊感みたいなものだ。見えない奴はその存在を認めない。見える奴はその存在を認める」

「えっと…じゃあ…」

「お前の目に、急に人間が動物に見えるようになった理由はそれだ。それが、お前が斑類という何よりの証拠になる」

「で、でも…今まで見えなかったのに急にそれが"見える"ようになったのは何で…なの?」

「それはお前が『先祖返り』だからだ」

「先祖、返り…?」

柳君が最初に言っていた言葉…



「まさか本当にお前が"先祖返り"だったなんて」



「先祖返りって何?何なの?」

「過去にお前の先祖に斑目がいたという事だ。斑目と猿人が交わると猿の力が強すぎて猿しか生まれない。だが稀に前の代に斑目がいると猿ではない子供が生まれる場合がある。それが『先祖返り』だ。先祖返りの最大の特徴は繁殖能力の低い斑類とは違って、"猿の強い繁殖能力を持っている斑類"ということ。お前は斑類の中でレア中のレア、超プレミアの斑類なんだ」


「…………」


開いた口が塞がらないというのはこういう事なんだと実感した瞬間だったと思う。
今日何度目になるかわからない"ポカーン"が私を再び襲っていた。

「……酷い顔だな。混乱したか」

「混乱しない方がおかしいでしょ…!」

柳君に酷い顔してるとか言われて突っ込もうとしたが、最早そんな気にもなれなかった。
とにかく私の頭の中は突如入ってきた異端な情報を上手く処理出来ず持て余している状況だった。







私達しかいない会議室にはパラパラと外から雨音がして来て、気付いたら部屋の中は薄暗く、カーテンの隙間から差し込む微かな光しか頼るモノはなかった。

「雨か…最悪だな…」

ぽそりと呟いた柳君が手を伸ばしてカーテンを少しずらし外を見た。
私の顔のすぐ横に伸びた柳君の腕をたどって彼の顔を見ると随分怠そうに鉛色の空を見上げていた。その眼は鋭く呼吸も若干乱れているように見えた。

「柳君、大丈夫…?」

普段見たことない様子に心配になって声をかけた瞬間だった。
会議室のドアの方からガンガン!ガチャガチャッと激しく扉を揺さぶる音が響いた。そして散々揺らされ痛めつけられたドアはついにはガキンッと激しい金属音と共に鍵が破壊された。

「ひっ、な、何…?」

もしかして先生…?と思いビクビクしている私とは反対に柳君は冷静だった。

そして、ガラガラ…とゆっくり開いた扉の向こうにいたのは――

「や、元気そうだね」

「ゆ、幸村くん…?」

――笑顔の幸村君だった。


「…やはり精市か」

「何で幸村君が…?」

「そんな事よりも6限目、この会議室を先生方が使うらしいから早めに出た方がいいよ。話の続きならテニス部の部室ですればいい、その方がゆっくりできるし、蓮二も楽だろう?」

ね、と幸村君はにこりと笑い、柳君がため息をついた。
それよりも私は5限目が既にもう終わっていたという事に1番驚いていた。

生まれて初めて授業サボっちゃったよ…!


「あ、美村さん」

「え?」

「とりあえずココ、隠した方がいいよ」

とんとん、と幸村君が自分の鎖骨を指差した。

「蓮二みたいにしつこい感じのキスマークがべったり付いてるから」

ふふ、と綺麗に笑う幸村君の言葉に私はピシリと石の如く固まった。そしてゆっくり自分の乱れた襟元―鎖骨の少し下あたり―を見て山が噴火するかのようにボンッと自分の顔を赤くさせた。



「キスマークって大概3日くらいで消えるけどそれは1週間くらい消えなさそうだよね。さすが蓮二」


「ぎゃあああ!!見ないでぇぇぇええ!!」


私は真っ赤になりながら必死になって胸元を隠した。



「えー、見えちゃったんだから仕方なくない?」

「お願い幸村君黙って!」



羞恥心とはこういう事か…。


「(うわぁぁぁあああ!!)」


私は2人に背を向け急いで乱れていた制服を直した。






クレッシェンド・暗転・ラビリンス





「というか、しつこいだなんて精市には一番言われたくない言葉なんだがな」

「ふふ、そお?お互い様じゃない?」




(何でこいつ等恥ずかしげもなく普通に会話してんの?!)





2013.07.27 satsuki
加筆修正 2013.11.20