「ま、何がどうあれ手っ取り早く完璧なジャミングをするにはヤっちゃうのが1番いいんだろうけど…」 「? やっちゃうって、何を?」 「何をって…、セックスだよ。これに勝るジャミングはないからね」 笑顔でとんでもない事を言う幸村君に眩暈を起こしたけれど、倒れなかった私はすごいと思う。 誰かお願い。どうか私を褒めて下さい。 弾丸とキスマーク 「な…ななななな、なん…だって…?」 私は額に手をあて痛む頭を押さえた。 「だからセッ…」 「あああああ!やっぱ言わなくていいですごめんなさい!!」 「そう?」 にこにこ。そんな効果音が相応しい幸村君の笑顔。 何でそんな涼しい顔してそんな性的な事言えるのこの人。私が過剰に反応し過ぎ?!ちらりと周りを見ると特に騒ぐ感じでもなく普通の顔をしている。あれ、このくらいの青少年たちはエッチな単語とか出たら「ヘイヘイ!」みたいな感じでハイテンションで騒ぐモンじゃないの?何でみんなそんなに慣れた顔してんの?いまどきの子怖すぎる。 「正直言っちゃうとホントにヤっちゃってくれた方がこっちとしては楽なんだけど…」 「いやいやいや!無理無理!!ゆきむ、ちょ、急になに言っちゃって、いやいや!無理無理怖い!めっちゃ怖い!そんなにアッサリ出来ないよ!私経験ないんだから!」 ひぃいい…っ!と声にならない声をあげる。そんな簡単にヤれるか!私は体の前で両腕を交差させ、必死に自分の身体を抱いて言った。 それなのにこいつらときたら… 「あーやっぱそうだよねぇ」 「へー、先輩処女なんスか」 「お前処女だったのかよ」 「処女処女連発しないでよ!あんた達私の事なんだと思ってんの?!」 何この扱い。酷過ぎる。柳君に至っては「…ふっ」って笑ってたからね! 「処女の何が悪い!乙女にとって初めては慎重なんですー!重要なんですー!」 「ふふ、わかってるわかってる」 「何その鳴きわめく犬をなだめるみたいな感じ。幸村君ほんとにわかってる?」 「勿論、わかってるよ。それにこの話はそうだったらいいなっていう理想論の話で、強要する気なんか毛頭ないから安心して?」 「そ…そうなら…いいんだけど…」 疑いつつも強要されないならまあ、いいか…、と私はクロスさせていた両腕を解放した。 「それにもう乗りかかった船…、というかもうがっつり乗っちゃった船だから、美村さんが自分の力をちゃんと自分自身でコントロール、制御出来るようになるまで指導するつもりだよ。主に蓮二が教える事になると思うけど、俺も出来る限り協力するから。勿論ブン太や赤也もね」 ね、と幸村君が黙って話を聞いていた丸井君と赤也君を見た。 「幸村君のいう通り乗りかかった船だしな。まぁ俺達の場合は成り行きだけど」 「あはは!確かに。でも美村先輩、喋りやすいし面白いから俺的には全然問題ないっス!協力しますよ!」 赤也君は笑った。 「あ、ありがとう2人とも…!」 さっきまでなんて奴らだ、と思っていたけど撤回するよ。すごくいい人みんな! 「幸村君も柳君もありがとう、私の為に…」 「ふふ、そんなに気にしないで。でもね美村さん」 「ん?」 何?とほろりとしそうになるのを堪え笑顔で幸村君を見た。 「蓮二と5日…、いや、3、4日に1度はキスしてもらう事になるよ」 「…………へ?」 少し固まってから笑顔のまま首を傾げる。 「だって、力の制御を覚えるまで結構時間がかかると思うんだよね。その間先祖返りの強いフェロモン垂れ流しにしておくわけにはいかないでしょ?」 「え…、いや、え、へ?ちょちょちょ、ちょっと待って幸村君」 私は再び混乱し始めた頭の中を精一杯整理した。 「えっと…、ジャミング、だっけ…?あれって…1回すればいいんじゃないの?」 「まさか!」 幸村君は笑ってから続けた。 「普通なら1回すれば暫らくは持つかもしれないけど美村さんは普通じゃない。先祖返りだ。先祖返りの強い匂いはそう簡単に消えたりしない。身体を重ねて匂いを消したならまだしもキスだけだ。5日も経たないうちにジャミングの効果はなくなってしまうよ」 「……ま、まじスか」 「まじだよ。だって力のコントロールの仕方を勉強している間中ジャミングしなかったらフェロモン垂れ流しで毎日過ごすことになるよ?前みたいにいつ誰に襲われても文句言えないよ?」 「確かに…」 それは一理ある。昨日の児島君のような事がまた起こってしまうのだけは避けたい。け、けど…さ。 私は横に座る柳君の顔をちらりと盗み見た。すると柳君が私の視線に気づきこちらを見るもすぐに私から顔をそらしてしまった。多分私の顔は赤いかもしれない。 確かに幸村君の言うようにジャミングは大事かもしれないけど、正直今日会議室で柳君としたキスが私のファーストキスだったりするわけですよ。 もうさ、もうさ、それを思い出すだけで破裂するんじゃないかってくらいドキドキするのにそれを3、4日に1度って鬼か!私きっと心臓破裂で死ぬよ! 急に無言になり顔を赤くし目を泳がす私を見て少し心配になったのか幸村君が気遣うように「大丈夫…?」と優しく声をかけてくれた。 「あ、うん。少しぼーっとしてただけ。ごめんっ」 「もしかして美村さん…」 「え?」 「もしかして他に好きな人だったり、他にジャミングして欲しい人がいたりする?」 「…………は?」 一瞬幸村君が何を言っているのかわからなくて間抜けな声を出した。 「もしも他に誰かいるんだったら遠慮なく言っていいんだよ?君の気持ちが最優先なわけだし」 「い、いやいやそんな!好きな人は今いない、し…!」 私はブンブン手を横に振った。 「そう?じゃあ蓮二でいいよね」 「……は、はい…っ」 今度は勢いよく首をブンブン縦に振った私を見て幸村君はにこりと笑い柳君に目を移した。 「蓮二もそういう事でいいよね?」 「あぁ、問題ない」 柳君は考える素振りも見せず頷いた。 「じゃあこれで決まりっ!明日からみんなよろしくね」 幸村君は話を締めるように1回パンと手を叩き、にっこりと楽しそうに笑った。 |