I'm your sweet.





美麗。

そういう言葉が何より似合うひと。


「ミヤビさん、紅茶、飲みますー?」


それともコーヒーのほうがいいかな。

日当たりのいい窓際の椅子に座って、少し眠りそうになっていた彼女にわざと話しかけた。

眠らせたくない。

だって、滅多にない二人きりなんだもん。


「それじゃあ、コーヒー」

「お砂糖は?」

「たっぷり入れて」


オーダーを受け取りキッチンに戻って、もう準備してあった二つのカップに熱いコーヒーを注いだ。

ひとつには角砂糖を三つ入れて、もうひとつはブラックのまま。

ちょっとしたクッキーなんかも小皿に添えて、彼女の待つあの日当たりのいい所へ向かっていった。


「お待たせ」

「ありがとう。わ、美味しそう」


テーブルに優しく置けば、すぐにクッキーに反応してぽいと口に放り込んで食べてくれる。

そして、本当に幸せそうな顔で「甘い。美味しい」って言ってくれるのが本当に嬉しい。


「ミヤビさんって、甘いもの好きですよねぇ」


さりげなく隣に座る。

ほんの少し、肩が触れあうくらい近く。


「好きよ。どうして?」

「何だか、意外だなぁ、って思いましてー」


そんなに綺麗な人が、子供みたいに甘いものが好きなんて。


「私にしたら、ファイがブラックを飲めるなんて想像できない」

「ええー?」


一口コーヒーを口に含んで、もうひとつクッキーを頬張るミヤビさんは、やっぱり幸せそうな顔のままオレを見上げた。


「ファイに苦いのって似合わない。ファイ自身がお菓子って感じ」

「えー、そうですかねぇ?」

「……どうして私には敬語なの?」

「…え?」


いきなりの話の脱線、そして質問にすっとんきょうな声を出してしまった。

今、コーヒーを飲もうと口をつけようとしていたカップを離してミヤビさんを見れば、真剣な、それでいて不服そうな雰囲気が見てとれる。

何でって言われても、なぁ。


「サクラちゃんには"ちゃん"づけなのに、私はいつまで経ってもミヤビ"さん"だし」

「うーん」

「私にだけ敬語で話す。仲間はずれにされているみたいで寂しくなる」


寂しくなる、と言われたら。

ちょっと申し訳ないなぁ。


「ミヤビさんはオトナって感じがして」

「全然。そんなことない」

「どうしても、そう感じちゃうんですよー」


綺麗だから、仕方がない。

オレのほうが年上なんだろうけどね。


「でも、ミヤビさんが嫌なら今日からでも…」


ふと見る、彼女の不満足な顔。

子供が怒ったように膨らませた頬。

それを見た瞬間に、ああ、女性じゃくて女の子なんだ、と確信する。


「呼んで」

「ん?」

「ミヤビって、呼んで」


ねぇ、呼び方や話し方をそんなに気にするのって。

もしかして、ミヤビさん?


「ミヤビ」


何度でも呼んであげるよ、君が満足するならば。


「ふふ」


そうして、お菓子を食べたときみたいに幸せそうな顔で嬉しそうにオレの肩に寄り添ってくる。

ちょっと恋人同士みたいでこそばゆいや。


「もっとクッキー食べるー?焼いてこようか」

「胸が甘いのでいっぱいだから、もういいよ」


お菓子。

オレが君にとってのお菓子であり得ますように。



(了)

 


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