いつだって、あなたは美しい。







「ファイ」


10メートルは離れているであろう距離、声を控えめに呼んでも、笑顔で振り向いてくれる。


「いないから、抜け出してきちゃった」


何を?

舞踏会、とやらを。

どこに?

この、夜風が吹くテラスに。

今日の今日、この国についたばかりの私達は、この国のマナーのひとつが踊りだということを聞いて、羽根を探すのと平行して息抜きにでもと参加したのだ。

幸いなことにこの国の舞踏会は、国民の誰もが参加しても構わない。

踊れるならば、旅人が飛び入り参加することさえ。

格好もいとわない、とは言っても、一応この国の服を着ているわけだけれど。


「まだ踊ってればよかったのにー。ミヤビちゃん、上手なんだし」

「でも…」


小狼とサクラはサクラがリードしながら一生懸命、そして楽しそうに踊っているし、黒鋼は黒鋼で料理を物色している。

最初のほうはファイと踊っていたけれど、一曲終わり、一休みしているうちに彼が知らない女性に誘われて行ってしまったのだ。

一人になれば、私もこれまた知らない男性に誘われ、離れ離れになってしまい、しばらくはお互い単独で動いていたわけだけれど。

でも、ファイがいないと、つまらない。

何とか切り抜けて踊っていた男性と別れてファイを探すけれど、なかなか見つからないし。


「いないから、心配してくれたんだー?」

「…それも、ある、けど」

「けど?」


それ以上は言えなくて、俯いて、「何でもない」と呟いた。

彼は微笑んで、寄りかかっていた柵から離れると、私の目の前に歩み寄る。


「実はオレも」

「?」

「変な男に可愛いミヤビちゃんが絡まれたりしないか、心配だったんだ」


見上げ、その言葉の真意を探る。


「本当に、それだけ?」


言えば、彼は真っ青でキレイな瞳を開けて私を見つめた。

また、美しく笑って。


「ううん、それだけじゃない」


真剣味のある声、顔、また一歩近づき、これでもかというほどに、私の体に彼の影が落ちるほどに近い、二人の距離。


「妬いてた」

「やきもち?」

「だって、ミヤビちゃんが好きだから」


"好きだから"。


「ミヤビちゃんも、オレのこと好きだから、ここに来てくれたんだよね?」


背中にさりげなくまわされる手。

最早、密着しようかというくらいに近い。


「うん、…」


やっぱり俯き気味に、控えめに、しかし確かに確信をもってそう言えば、引き寄せられる体。

ファイの腕の中は、想像したより暖かい。

トクン、トクンと、鼓動の音もしっかり聞こえる。

私は彼に抱き締められているのだと実感する。


「ファイ……」


そしてキスをするのは、当然の成り行きで。


「す、き。好き」


唇が離れると同時に囁けば、また腕の中。

ふとした瞬間に見えた、嬉しそうな、柔らかい笑み。

ああ、美しい人よ。

永久に、そのままで。



(了)

 


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