しあわせとお手々「ミヤビちゃん。お待たせ」
玄関で座って待っていた彼女の背中に声をかければ、彼女はゆっくりとオレに振り向いてにっこりと微笑む。
「うん。行こ」
今日は久しぶりな二人きりのおでかけ。
二人きりで街を歩くんだ。
「ね、ファイ」
「んー?」
「手、繋ご」
何てったって、堂々と手を繋いで歩くことができる。
ミヤビちゃんの可愛い手が遠慮がちにオレの手に寄り添って、催促してくる。
彼女自身はと言うと、上目遣いでオレの様子を窺ってきているし。
うーん、可愛い。
「いいよ。繋ごーー」
本当は、いつでも手を繋いでいたいんだろうなあ。ミヤビちゃんも。
「さて。どこに行こっかー?」
「ファイの行きたい所ならどこでもいいよ」
「オレもミヤビちゃんの行きたい所ならどこでもいいんだけどなーーー」
君の喜ぶ所に言って、君の喜んだ顔を見れればそれでいいよ。
「暖かいねぇ、手、繋いでると」
「すっごく暖かい」
冷たいはずのオレの手が暖かくなるにつれて、同じように心まで暖かくなってくる。
彼女の笑い声を聞くと、更に。
君は魔法を使えたのかと、思わず尋ねたくなるくらい。
その温もりが、今はない。
必死で辺りを見渡して彼女の名前を呼ぶけれど、見つからないんだ。
「はぐれちゃったか…」
はぐれてから10分。
向こうが動いていなければもう見つかっているはずだが、こう見つからないのは、向こうもオレのことを探して歩いているからなのだろう。
街は人が多くて、探しづらい。
しかも、彼女は小さいからなおさらだ。
「どこーーー?」
手を離すんじゃなかった。
ずっと繋いでいればよかったんだ。
「ミヤビちゃん…」
彼女が隣にいないと不安になってくる。
彼女も今、人ごみの中、オレを探しながら不安を抱えているのだろうか。
そう考えると、胸が締め付けられてとても苦しい。
「どこにいるんだよぅ……」
街のど真ん中に位置する噴水。
その前にあるベンチに力なく腰をかけて、はぁとため息をつきながら項垂れた。
こういうときは大袈裟なことばかりが頭に浮かんだりする。
もう会えないんじゃないかとか、変な男に絡まれてるんじゃないかとか、さらわれちゃったんじゃないかとか、そういう類いの意味もない心配事。
「さらわれてたら、どうしよう…」
ミヤビちゃんは可愛いから。
そう思うと更に不安は募る。
だって、否定できないんだもん。
可能性はいくらでもある。
「もう一回り、行ってくるか」
「あっ!いた!!」
「?」
背後からすっとんきょうな声がした。
しかも、聞き覚えのある。
「……!」
立ち上がり後ろを見やれば、そこには買い物袋をたくさん抱えた、会いたくて仕方がなかった彼女がいた。
「ミヤビちゃん!どこに…」
「どこにって、こっちの台詞だよぉ!」
「えー?」
安心して彼女に駆け寄り、買い物袋を受け取る。
「買い物が終わって外に出たら、ファイいないんだもん!」
あ。
そういえば、オレ、ミヤビちゃんの買い物が終わるのを店の外で待ってたんだっけ?
「ちょっとお店を離れるなら、一声かけてよねー」
オレが街を一回りしてきたこと、彼女は知らない。
ま、教えなくてもいいか。
ちょっと、恥ずかしい勘違いだし。
「ミヤビちゃん、ミヤビちゃん」
「何?」
「手、繋ごう?手」
片手で買い物を抱え、もう片手で彼女の手に触れる。
「どうしたの?慌てて」
「繋がないとねーー」
「慌てなくても、手は逃げないし、私もどこにも行かないよ」
分からないじゃないか。
彼女の指に彼女絶賛のオレの長いらしい指を絡め、しっかりと繋いで。
これでもうはぐれたりしないね。
はぐれるのは怖いから。
僕と君の手を、いっそ接着してしまいましょう
(了)
※お題配布元…SWEET DOLL 様
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