花言葉


生徒会長と花言葉



「幸人先輩は、桜って感じがします」

生徒会室の開け放たれた窓から、咲き誇るピンクを見下ろす。
咲くときは堂々と、でも散るときはどこか儚げな姿は、彼みたいだと思った。
「…俺は、毎年散るのか」
いつの間にか隣に立っていた幸人先輩が、窓枠に片肘をついて私を見ている。
「そういうわけじゃないですけど…」
毎年咲いたりもするんだけどなと思うけど、何も言わずに幸人先輩に寄りかかることにした。
すると、小さな力が遠慮がちに返ってくる。
それが嬉しくて、私は寄りかかったまま、幸人先輩と同じように窓枠に両肘をついた。

しばらく2人並んで桜を眺めていると、ぽつりと幸人先輩が呟く。
「“優美な女性”」
「え?」
「桜の花言葉のひとつだ」
視線を桜に向けたまま、幸人先輩は少し不機嫌そうに言葉を続けた。
「だから、男の俺には桜は合わない」
「……そうですか?」
「怒るぞ」
「す、すみません…」
うう、と肩を落とすと、隣から小さく吹き出したような声。
幸人先輩を見ると、口元を隠していながらも彼が笑っているのがわかった。
「か、からかいましたね!」
「ああ、悪い」
「もう…」
幸人先輩が本当は怒ってなかったことに安心したのと、笑ってくれるのが嬉しくて、私はまた幸人先輩に寄りかかる。
「……あ」
不意に握られた手は、すごく優しかった。

「桜は女性的だろう、見るからに」
窓を閉めながら、幸人先輩は言った。
「花言葉も“優美な女性”と言われるくらいだ」
「じゃあ、その花言葉を考えた人は男の人ですね」
そっかと呟くと、幸人先輩は私の手を繋ぎ直す。
そして真っ直ぐ、私に視線を向けた。
「…どうして言い切る?」
「女性っていうから、男性目線なのかなって思ったのもありますけど…」
優しくて冷たい手を、ぎゅっと握り返す。
「考えた人は、桜みたいな人に恋をしてたのかなって」
その人と、重ね合わせたのかも。

「だから、やっぱり私にとっても幸人先輩は…桜みたいです」

そう言うと、幸人先輩は驚いたように目を見開き、それからまたふっと笑った。
「…俺は彼女じゃない」
「そ、それは言葉の綾で…!」
「わかってる」
ふわりと頭を撫でてくれた手が優しくて、私は赤く染まった頬を隠すように俯く。
「…あんたはかすみ草みたいだな」
「かすみ草、ですか?」
「ああ」
頭の中に、白くて小さい花が思い浮かぶ。
あの花が、私?
「その分だと、花言葉は知らないな」
「かすみ草の花言葉って、なんですか?」
「自分で調べろ」
「……はい」
ふわふわと優しく撫でてくれたあと、額に軽い衝撃。
「かすみ草は好きだな」
頭上から降ってくる声に、私の胸があたたかくなる。

「…俺は、そんなあんたに救われている」

そして幸人先輩は、私に幸せをくれるのだ。




かすみ草の花言葉

清らかな心



end



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テーマ「人外ファンタジー」
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