花言葉


生徒会会計と花言葉



「直江先輩は…うーん…」

「…別に、無理に例えてもらわなくても結構ですよ」
そっけなく、僕は言った。
彼女が本当に困ったような顔をしていたからというのもあるが、この設定に僕が納得していなかったというのもある。
どうして僕だけ、付き合っている設定ではないんだろうか。
「いや、設定というか…そんな簡単なものでもないけど…」
僕がぶつぶつと言っている間にも、正面に座る彼女は真剣な顔で辞典を見つめている。
雨の音しか聞こえないほど静かな図書室という空間の中には、僕と彼女しかいなかった。

しばらく彼女を眺めていたが、なかなかに悩んでいたので、さっきの言葉を零したのだが。
それでもやめる気はないようなので、僕も彼女に合う花言葉を探すことにした。

とは言っても、僕は彼女のように辞典を棚から持ってきていないので、知っているものの中から探さなければならない。
記憶を頼りに思い出していけば、いつか偶然に見た花の名前に辿り着く。

…彼女は、カミツレだ。

“逆境に耐える”。
たしか、カモミールの和名だったろうか。

生徒会に楯突くGフェスの唯一の女子。
憎き団体に所属しているのにも関わらず、彼女だけはどうにも憎みきれない。
僕ら生徒会に振り回され、Gフェスとして奔走する姿は懸命で。
「…好感は、持てますけど…」
「え?」
「なんでもありません」
「?そうですか?」
そう言うと、彼女はまた視線を辞典に戻す。
…僕の気も知らず、暢気なことだ。
でも、僕だけのことで頭を悩ます彼女を見ているのも、悪くないなと思った。

「…デージー!」
「!?」
いきなり大声をあげたと思ったら、達成感の滲み出た笑顔がこちらに向けられる。
「…デージー?」
「はい、デージーです!」
「はぁ…」
満面の笑みに僕はどう答えていいかわからず、思わず彼女の手元にある辞典を見つめた。
「あ、こ、ここです!」
僕の視線に気づいたのか、あるページを開いて差し出す。
見出しに『デージー』と書かれた、1ページの半分を埋める写真と、生態が書かれた文章。
花言葉を探すと、下段の方に小さく表示されているのを見つけた。
「“明朗”?」
「ち、違います!白じゃなくて紫のデージーの方で…」
「違いますって、失礼ですね」
「あ、すみません…」
「…まぁいいです」
焦る彼女を尻目に隣のページに視線を移す。
「…“純粋”?」
「はい!」
「……僕がですか?」
「?はい、直江先輩がです」
「ど、どこがです?いつも僕は、あなたの邪魔をしたりして…」
優しくもなく、きっといい先輩でもない。
イベントをどう中止させようかと常に画策している。
純粋と言ってもらえる筋合いは、僕にはないはずなのに。
「確かに直江先輩は邪魔をしてきますけど」
拗ねたような口調とは裏腹に、彼女は笑顔を浮かべている。
「その根本には、勉強がしたい、生徒たちに勉強してほしいっていう気持ちがあったんですよね?今までの行動は、純粋にそれを思ってのことだと思いますから」
行きすぎてるなと思うこともありますけど、と彼女は続けた。
「だから直江先輩は…ちょっとひねくれてますけど、純粋なんじゃないかなって」
「…随分な物言いですね」
「あ…えっと…!」
焦る彼女を見て、僕は思わず吹き出してしまう。
「え…?」
「…いえ、すみません。僕はもう行きます」
席を立ち、彼女を見つめた。
「ああ、そうだ」
あなたはカモミール。
僕が言うには、少し嫌味たらしいだろうか。
「…あなたもデージーだと思いますよ。白い方ですけど」
「え…?」
さっき見た辞典に載っていたのを思い出す。
“明朗”ではない方だ。
「それはあなたの悪いところであり…良いところでもあると思います」
不思議そうに首をかしげる彼女。

…そんなあなたが、

その先の言葉を、僕は飲み込んだ。




デージー(白)の花言葉

明朗

無邪気



end



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