特別な日


一緒に出掛けた日の帰りがけ。
「おめでとうございます」という言葉とともに、何故か手渡された小さな箱。
「何故だ」と聞いたら、彼女は寂しげな顔をして、家の中へ入っていってしまった。

彼女の態度の意味がわからないまま、もらった箱を片手に家に帰ると、自転車を停めていた棗に出くわす。
「出掛けていたのか」
「あ、幸人。おかえり」
「ああ」
俺の手にある箱にチラリと視線を向け、棗は安心したように微笑んだ。
「?どうした?」
「いや、なんでもないよ」
そう言いつつ笑顔なのは何故だと思ったが、急に目の前に差し出された紙袋によって、その思考は断ち切られる。
少し離れた場所にある、大型書店の紙袋だ。
「……なんだ?」
「問題集。この人の問題集はいいって、前に言ってたでしょ」
「…?」
「夏に向けて新しいのが出てたから。使ってよ」
「…ああ、すまない。いくらだった?」
そう聞くと、困ったように棗は笑う。
財布を取り出そうとする俺の手を抑え、「もらえないよ」と残して家の中へ入っていった。

小さな箱と紙袋を抱えつつ、棗に遅れて家に入る。
「あ、幸人」
玄関で靴を脱いでいたところに現れたのは、棗ではなく美影だった。
俺の抱える箱と紙袋を見るなり、ニヤリと笑う。
「…なんだ」
「別に。…あ」
何かを思い出したように手を叩き、2階へと駆け上がっていった。
騒がしいなと思いながらも気にせず、リビングへと続くドアに手を伸ばしたところで、ドタドタと階段を駆け降りてくる音。
「…うるさい」
「はいはい。これ」
「……?」
ずいっと差し出されたのは、黒いボールペンの束をリボンでまとめられたもの。
「…なんだ、これは」
「見てわからないの、ボールペン。別にあっても困らないでしょ」
「あ、ああ…困りはしないが」
しかし何故、と聞こうとしたが、美影はもう用はないとばかりに背を向け、階段を昇っていってしまった。
「…違う結び癖がついてるぞ、このリボン」
どうでもいいことを呟く。
疑問とともに増えた貰い物を抱え、リビングへと移動した。

「…なんだ、それは」
家に帰ってきてから、3度目の言葉を呟く。
リビングにいたのは、生徒会と敵対する委員会の会長、もとい双子の片割れ。
…彼女と出会い、昔の誤解は解けて前ほど憎いわけではなくなったものの、今さら仲良く話そうという気にはならない。
それは向こうも同じだろう。
「ん」
「…だから、なんだ」
「余ったから、食え」
そう言って寄越されたのは、ホール型だったのをきっちりと半分に切り分けられたショートケーキ。
近づいてみれば、ご丁寧にプレートも真っ二つにされていた。

そこで、ようやく思い出す。

「…だから、か」
抱えた荷物に視線をやり、先ほどの彼女の顔を思い浮かべた。
恵人を見れば、今までにないくらい、優しく微笑んでいる。
「…気味が悪い」
「言ってろ言ってろ。これは俺からのプレゼントだ」
「食べかけが、か?」
「俺も誕生日なんだ、食っていいだろ」
当然、とでも言いたげに、恵人は笑ってリビングを出ていった。

「…このケーキの箱のリボンじゃないか」
一人残されたリビングで、半分にされたケーキと向き合う。
ボールペンをまとめたリボンの正体がわかり、今日貰ったものを並べてみた。
彼女から貰ったものに手をかけ、ふと携帯を取り出す。
通話ボタンを押し、繋がる先はもちろん彼女だ。

『幸人先輩?』
「…今から、迎えに行ってもいいか」
『え?』
「言いたいことがある」

言わなくちゃいけないこと。
話したいこと。

目の前に並ぶプレゼントを見つめ、自然と頬が緩む。

「ありがとう」
『えっ?』
「…会って、言いたい」
『あ…は、はい!』
「今から行く」
待ってます、という言葉を聞いてから、電話を切った。
ケーキだけは冷蔵庫にしまい、すぐに家を出る。

彼女の元に向かう間、今日がもう少し長ければ、と。

初めて、思った。




気付けば、

特別な日。




(…来週、付き合ってくれないか)
(どこに行くんですか?)
(買い物に行く)
(買い物…?)
(ケーキのお返しだ)
(…はい!)


end



幸人先輩誕生日おめでとう!
源さんは出せませんでした…

20110703



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