そして、行き着く先は


幸人が彼女に笑いかけていた。
彼女も、幸人を見上げて笑っている。

イライラしてる自分。
ドキドキしてる自分。
何にイライラして、何にドキドキしているのかわからないまま、気づけば僕は2人の間に割り込んでいた。

「…京一?」
「あ、あなたはまた幸人に近づいて…!」
「な、直江先輩…!?」
幸人に背を向けているため、彼の顔を見ることはできないが、彼女の顔を見れば一目瞭然だ。
真っ赤な顔。
幸人にときめいていたに違いない。
ズキンと痛む胸をおさえ、僕は彼女の腕を掴む。
「あなたの行く場所は、あの陰気な美術準備室でしょう?この僕が直々に送ってあげます!」
「え、え?」
「ほら、行きますよ!」
戸惑う彼女を、幸人から距離を取るように引っ張っていった。

イライラしたのは、幸人が彼女なんかと一緒にいたから。
ドキドキしたのは幸人の笑顔を見たからだ。
この解釈はあまりよくないかもしれないが、今の気持ちを理解するにはこう思うしかなかった。
今の気持ちを理解するには。
『今』の、気持ち。

「……してない、じゃないか」

イライラなんてしてない。
掴んだ腕がとても細くて、やわらかくて、触れている部分が熱い。
気づいたときには緊張していて、いつの間にか歩みは止まってしまいそうなほどに遅くなっていた。
ドキドキしている自分がいる。
イライラしている自分はいない。

じゃあ僕は何にイライラしていたんだろう。

「…あなたに、じゃないんですか…?」
「な、なんのことですか?」
「いえ…こちらの話なんですが」
「…そうですか…」
Gフェスの一員である彼女と一緒にいるのに、さっきほどの苛立ちはなくなっていた。
戸惑いながら視線を向けると、不思議そうな瞳が返ってくる。

…わからないのは、僕も同じだ。

「だ、大体、どうしてあなたはそう生徒会の人間と2人になるんですか!」
「えっ?」
「あなたはGフェスの一員で、僕たちと敵対している立場でしょう!またあらぬ疑いをかけられたらどうするんです?」
この際、僕も疑いをかけたことがあるという事実は置いておくとして。
イライラしていた理由がわからなくてイライラする。
わかってることは、これがただの八つ当たりだということだけ。
しかし、これで本来の調子を取り戻した僕は、彼女の腕を掴み直して大股で歩き出した。
「あなたはもう少しまわりを見て行動すべきです。まわりの人間の…」

あなたへ向けるモノ、とか。

それは視線であったり、気持ちであったり。

…笑顔、だったり。

「…いえ。何を言ってるんでしょう、僕は」
は、と短く笑う。
自分でも何が言いたいのかわからないのに、それを彼女に言ったってどうしようもないじゃないか。
「あ、あの…!」
絞り出すように発された言葉に、彼女を振り返る。
さっきと同じ、真っ赤な顔をして、僕の服の裾を握っていた。
「?ちょっと何を…」

「あ、ありがとうございます…!」

彼女の唇から紡がれた言葉に、僕は耳を疑う。
「………はい?」
僕の聞き間違いでなければ、彼女は確かに僕に向けて、感謝の言葉を述べた。
「ど、どうして僕がお礼なんて言われなきゃ…」
「心配してくれたんだな、と思いまして…あの」
ありがとうございました、ともう一度、彼女は言う。
「し、心配なんて…!」

さっきの言葉はただの八つ当たりで、別にあなたを心配して言ったことじゃない。
あなたはいつも僕らに関わって痛い目を見るから。
だったら、はじめから近づかなければいい。

そう言いたいのに、言えなかった。

…言わなかった。

「…あなたはやっぱり、まわりをよく見た方がいい」
「まわり、ですか?」
「あなたに近づいてくる人間も、いい人ばかりではないということですよ」
僕も含めてね、と心の中で呟く。
声に出しては言わなかった。
「ありがとうございます!」
3度目の感謝の言葉を述べ、彼女は笑う。
「………っ」
ドキンと一声鳴いた胸を無視して、彼女から視線をそらした。
気づけばもう、美術準備室のある階に到着している。
「…早く、行ってください」
「は、はい!どうも」
「ありがとう、はもう要りません」
「…はい。じゃあ、失礼します」

美術準備室へと歩き出す彼女を見送る。
その背中に向かって自然と零れた言葉に、僕は首を横に大きく振った。

「…本当に、僕は何を言ってるんだ」




そして、行き着く先は。




(…なんだったんだ)
(京一なら『幸人に片想い』のBL路線でもよかったんだけどなー)
(葉月)
(厄介だよねぇ、無自覚は)
(…余計な敵は増やすなよ)
(はーい、生徒会長さま)


end




久しぶりの直江先輩。
アプリでは嫌なやつ全開ですが。

20110524



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テーマ「人外ファンタジー」
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