プレゼントの空耳


冗談だって、思った。

だけど今、目の前にいるこの人は、“本当に”やってのけている。

「ほら、早く受け取って」

頭に横結びでくくりつけられたリボン。
イスに座って、上目遣いで見つめてくる葉月先輩は、本気で。

「プレゼントは、俺だよ」

付き合って初めてもらったホワイトデーのお返しは、人間だった。


誰もいない生徒会室に呼ばれたのは、30分前のこと。
Gフェスの会議を終え、急いで美術準備室を飛び出すと、まっすぐに生徒会室へと向かった。
『幸人も京一も、みんな帰ったからいないよ』といったメールが入っていたから、生徒会室には葉月先輩一人で待っているということだ。

生徒会室の扉の前に立つだけで、自然と背筋が伸びる。
いつもはGフェスと敵対する人たちのいる教室でも、今は年上のくせに可愛い恋人のいる教室。
ホワイトデーということもあって、緊張している私と、期待している私がいた。

ただし、扉を開ければ、その2つともが見事に打ち砕かれてしまうのだが。


「…葉月、先輩?」
「早くほどいてよーリボンー」
頬を膨らませながらイスをガタガタと鳴らす葉月先輩は、言ってしまえばものすごく可愛い。
けど、この状況はどうにも。
「理解が…追いつきません…」
「えー?めちゃくちゃ簡単じゃない」
にこにこと微笑みながら、私の手をリボンへと導く。

「これをほどいたら、俺はひめちゃんのもの」

「え…」
「やってみたかったんだよね、“俺がプレゼント”って」
「ええぇぇ」

普通じゃないとは思ってたけど。
あんなに厳しい2人に挟まれていても笑顔を保っていられるし、平気で意見することもできるなんて、すごいことだと思う。

だけど、ここまでだなんて。

「…えっと」
「大丈夫!俺と一緒にこれも付いてくるから」
鞄の中から取り出した可愛らしい箱。
ちゃんとしたお返しもある、ということらしい。

「これが欲しかったら、俺をもらうしかないよ?」

「……」

無邪気に微笑む葉月先輩に、自然とリボンを掴む手に力が入る。

きっとこれは冗談なんだ。
プレゼントを渡す前の、ちょっとしたサプライズ。
そうだ、きっとそう。

人なんて、そうそう貰えるわけ、ない。

「じゃあ…」

いただきます、とリボンをほどいた瞬間、視界いっぱいに広がる葉月先輩の顔。

唇には、やわらかい感触。

これって、まさか、


「は、葉月先輩!?」
「はい、お返し」
「ありがとうございます…って、違います!今…!」
「うん、ちゅーだよ」

にっこりと微笑む葉月先輩に、私は言葉を失う。

不意にされて、びっくりしたけど。

嫌じゃ、なくて。

嬉しくて。

「…悔しい」

そう呟くと、また唇が塞がれた。
さっきよりも少し長く、だいぶ甘いキス。

目の前には、ふわりとした笑顔。

「もう一回って言わなかった?」
「…言、ってません」
「うそ。俺には聞こえた」

ぎゅっと抱きしめられて、額に口付けられる。
なんだか頭がぼんやりとして、思わず葉月先輩の制服の袖を掴んだ。

「欲しがり屋さんだなぁ、ひめちゃんてば」
「え…?」
「そんなに言うんなら…」

ぐい、と私を引き寄せ、自分の膝に座らせた私の耳元で、いつもと違う低い声で囁く。


「今日はひめちゃんの頭の中が真っ白になるまでキスします」


私に拒否権はないようです。




プレゼントの空耳。




(あ、そうだ!)
(…なんですか?)
(お返しに俺をあげるって言ったけど、やっぱ違う)
(本気だったんですね…)
(お返しにっていうか、俺っていつでもひめちゃんのだったかも!)
(……ああもう、小悪魔!)


end



滑り込みホワイトデー!
トップのコメント
言わせてみたかったんです…

葉月先輩きてますね!
テスト勉強の時の葉月先輩が
可愛くて可愛くて…

新キャラとして
配信されないかな…


20110314



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -