静かに欲情


我慢ってほどでは、

…あるんだけど。


放課後の教室。
逃げ出したい気持ちと共に無理やり押さえつけられ、机に向かわされる。
「やーまとー」
「…なに」
…孝介という先生付きで。
「その公式を使う問題はさっき終わったんだけど」
「……はい」
「あと何回言えば覚えられる?」
「…大丈夫、もう覚えた」
そしてまぁ、案外というかなんというか、結構スパルタだったりする。

はぁ、と数式と向き合いながら深いため息。
…隣に、いない。
「どんだけ数学イヤなんだよ…」
「違う」
数学じゃないから、と窓の外に視線を向ける。
もう、帰ったかな。
「一緒にいないから、変な感じ」
「ああ…そっちか」
孝介に視線を戻すと、にやにやと頬杖をついて俺を見ていた。
「…気持ち悪い、孝介」
「気持ち悪いって言うな!」
「……不気味?」
「たいして意味変わらないし…」
言いつつ少し落ち込んでしまった孝介を放置し、残りの問題に手をつける。
テスト前の放課後、教室には俺と孝介以外誰もいない。
静かな場所だからこそ、余計に隣にいない存在が恋しくなる。

…自分で、距離を置いたくせに。

「…孝介とじゃなかったら、もっとはかどるかもしれないな…」
「お前それ失礼以外の何物でもないから!」
「ごめん、半分くらい嘘」
「半分は本当なんだ…」
今度こそ本当に落ち込んだ孝介は、へなへなと窓にしなだれかかる。
面白いのでしばらく見ていると、突然ハッとして窓の外に手を振った。
「?」
「大和、ほら」
窓を開け、孝介に腕を引っ張られる。

見下ろした、先には。

「……ひめ」

校庭に立つ、女の子。
ここからでも見間違うはずがない。
彼女も、こっちを向いてる。

「………」

俺は無意識に、彼女に向かって手を伸ばした。

「……」

なんだか、心が、しめつけられ…

「大和?」
「…っ」
ふと我に返り、伸ばしていた手を引っ込める。
遠くに立ちすくむ彼女に小さく手を振り、俺はゆっくりと窓を閉めた。
「よかったのか?」
「ん…」
無意識に伸ばした手は、彼女を求める俺の気持ちの表れだ。
ただ、求めて。
触れたくて。
めちゃくちゃに、したくて。
彼女と付き合って、こんな衝動ばかりが生まれてくる。
どうしていいかわからない俺は、たまに彼女との繋がりを遮断してしまう。
今日だってそう。
孝介と勉強するのを口実に、先に帰っててと言った。
待たなくてもいいから、と。
「………」
…変に、思ったかな。
どうしたの、と言われたらどうしよう。

…俺の本当の気持ちを言って、もし、嫌われたら。

「じゃ、もう少し頑張れよ」
そう言った孝介は、いそいそと鞄にノートをつめていた。
というか、帰ろうとしていた。
「…俺も帰る」
「大和はもう少しいろよ。走ってたからすぐ来るだろうし」
「は?」
何言ってんだと言おうとした口は、廊下から響いてくる音によって閉じられる。

走ってくる、音。

開かれる扉。

「…え…」

そこには、彼女が。

「…なん」
「じゃあね、ひめちゃん」
「あ、うん…!」
俺の言葉を遮って、ひめと入れ代わりに教室を出ていく孝介。
…気の利かせ方が露骨すぎるだろう。
それでもひめは気にも留めていない様子で、肩で息をしながら俺に向かって歩いてきた。
高鳴る胸を押さえつける。
どうして、と聞きたいのに、声が出ない。

気付けば俺は、ひめをぎゅっと抱きしめていた。

「や、大和くん…?」
「……」
「…勉強するって、言ってたのに…ごめんね…?」
来ちゃった、と服の裾を掴んでくるひめ。
ううん、と小さく答えれば、安心したように笑う声が俺の耳元で響く。

ねぇ。
もし今、俺が考えてることを全部声に出したら。
やっぱり、嫌われるかな。
さっき伸ばした手が、すごく邪な気持ちからのものだと知ったら。

「大和くん」
「…ん?」
「さっき、手を伸ばしてたよね?」
「…っ」
指摘されただけなのに、なんだか疚しい気持ちまで見透かされたみたいで、言葉に詰まってしまった。
「…はい、手」
「…?」

「私、大和くんに触りたい」

ぎゅ、と握られた手は、俺の手よりも熱い。
無意識に触れた頬も、だいぶ熱くて。
バカじゃないの、と小さく呟く。
「…そんな顔で…そんなこと言って。…俺が普段、何を考えてるか…」
知ったら、嫌いになるかもしれないのに。
気持ち悪いって、思うかもしれないのに。
「…それでも、ね」
「え?」
「我慢して距離を置かれるよりは、触れあっていたいって思うの」

顔を真っ赤にしながらも、真っ直ぐに見つめてくる彼女。

本当に?と声に出す前に、自然と顔が近づいていく。

大丈夫?

もう、戻らせてあげないよ?

…ほら。
最後の、確認。

「我慢しないでいいですか」




静かに欲情。




(…ここで残念なお知らせがあります)
(なに?)
(理性が底を尽きそうです)
(…え)
(…ここでは我慢した方がいいですか)
(…できれば…お願いします…)


end



大和!
新キャラ希望…!

20101206



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