とある放課後
ああ、もう。
どうしてそんなに可愛いんだ!
「ひめちゃーん」
「は、葉月先輩!?」
「迎えに来ちゃった。もう帰れる?」
可愛い彼女をお迎えにあがった俺は、冷たい空気にも負けずに美術準備室を覗く。
いわゆる敵地であり、アウェイな空気を感じずにはいられない。
だけど、そんな敵地に俺の可愛い彼女(2回目)を1秒でも長くいさせたくないっていう気持ちもある。
「んだよ、来んなよ」
「そうだそうだ!ここはGフェスの部室だぞ!」
「…生徒会も暇なんだね」
「葉月くんだけじゃない?」
「…戦力外…?」
というような非難の言葉にも負けず(最後の2人は痛いとこを突く)、むしろ準備室に足を踏み入れ、彼女の手を掴んで救い(引っ張り)出した。
「お、お疲れさまでした…っ」
「お先にー」
突き刺さる視線をあとに、下校時間が迫り、人気のない廊下を歩く。
「は、葉月先輩…」
「あっ、ごめん!痛かった?」
困ったような声に、階段の途中で手を離そうとすると、ぎゅうっと手を握り返された。
「違います、から…」
離さないで、と顔を真っ赤にして呟く彼女が愛しくて、まわりに誰もいないのを確認してから、頬に一瞬のキスをする。
「…っ!」
「Gフェスの中でもそんなに可愛い顔しちゃってるの?」
「え…」
「心配なんだよ、結構」
階段の1段上に立つ彼女を少し見上げ、正面から向き合う。
じっと見つめると、さっきよりも顔を赤くし、耐えきれなくなったのか顔をそらした。
「葉月先輩…?」
「ダメだよ。ちゃんと見て」
「う…」
おずおずと目を合わせる彼女。
「ああ、もう!」
なんて可愛いんだ!と叫ぶ。
絶対、絶対Gフェスのやつらだって思ってる。
絶対に一回は好きだって思ったはずだ。
そんなやつらの中に、1人で置いておくなんて、本当は我慢できない。
Gフェスを辞めて生徒会に入ればいいのに、といつも思ってる。
だけど、Gフェスに入ってくれなければ、こうして向かい合うことも、キスすることだってできなかったと思うと、複雑だ。
イベントのときに見せる笑顔はすごく可愛くて、生徒会にいたら、そんな顔にさせられなかったんじゃないかとも思う。
だから、ね。
「…可愛すぎるんだ」
「そ、そんな…」
「でも」
もう一度、今度は唇に。
「楽しそうに笑ってるきみも好きだから、何も言わない」
「…っ」
「だから、迎えに行くくらいは、許してね?」
「……はい」
ありがと、と呟き、再び歩き出そうとすると、繋いだ手の先にいる子が動かない。
「ひめちゃん?」
「…私も」
頬に触れる、やわらかな感触。
珍しい、彼女からのキス。
「楽しそうに笑ってる葉月先輩も、好きです」
「…」
「迎えに来てくれるのも、嬉しいです」
にっこりと笑う彼女を見つめ、気付けばまた可愛い唇を奪っていた。
「…きみには、敵わないみたい」
可愛い可愛い彼女の笑顔を、敵対しながらも守っていこうと。
俺は思ったのでした。
とある放課後。
(最近…直江先輩に睨まれるんです)
(一応、京一も敵だからねー)
(葉月先輩を奪われたと)
(いや、思ってないから)
(でも…)
(…きみに敵はいません)
end
葉月先輩は
付き合ったら
きっと甘い。