自惚れてもいいの?
俺に向ける笑顔と、キイタに向ける笑顔。
少し違うと気付いた俺。
「…そっか」
そのとき俺は恋を自覚し、同時に失恋を味わったのだった。
時は流れ、季節は冬。
校庭の木々が枯れていくなか、芽生えた気持ちはそう簡単には枯れてくれなかった。
4人でいることが増え、彼女と一緒にいることだってもちろん増える。
気持ちは育っていく一方だった。
だけど、やっぱり。
あの笑顔が。
「…違うよなぁ」
「何が?」
「いや、こっちの話」
「…ふぅん?」
思わず呟いた言葉に反応する大和に内心驚きつつ、キイタと笑い合う彼女を見る。
Gフェスで一緒にいることだって多いだろうし。
やっぱり、それだけ一緒にいたらさ。
「付き合ってんのかな、ふたり」
ぽつりと本音が零れる。
「…まさか」
「え?」
「完璧…キイタの片想い」
やけに確信めいた口調で、大和はふたりを見ながら言った。
「孝介は気付いてると思ってた」
「…何を?」
「…言わない」
「え、そこまで言っておいて?」
「自分で考えなよ」
「なんだよ……って、あれ?」
「なに」
「…俺の気持ち、バレてる?」
「…何を今さら」
ふん、と得意げに笑う大和の言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
見すぎなんだよ、と言い残し、キイタと彼女の方へ歩いていく。
しばらく3人で話し、大和はキイタを連れて教室を出ていった。
え、なに?
どうして?
静かに混乱する俺に視線を向け、残された彼女は近付いてくる。
にっこりと笑って、俺と向かい合うように座った。
「…どうしたの?」
「男同士の相談だって。…孝介くん、置いてかれちゃったね」
「…ね」
やっぱりキイタに向ける笑顔と違う。
キイタの片想いだなんて、大和はどうしてそんなことが言えたんだろう。
あの笑顔は。
恋をしてる顔じゃないのか?
「…ひめちゃんはさ」
「ん?」
「…キイタが、好きなの?」
自分でも驚くくらいに落ち着いた声だった。
なんでもないふりがこんなにもつらいものだと初めて思う。
「違うよ」
きっぱりと言い切る彼女。
思わず耳を疑う。
「え?」
「キイタくんは…仲間だし…」
「…なんで?」
驚いたような表情の彼女に向かい、俺は思わず呟いていた。
「だって、違う」
「孝介くん?」
「笑顔が…あれ…?」
どうしよう、混乱してる。
キイタに向ける笑顔は。
あんなにも、可愛くて。
「…特別、なんだって…」
じゃあ、どうして。
笑顔が。
「違うの…?」
…ぎゅう。
静かに混乱する俺の頬に、鈍い痛みが走る。
目の前で起きた出来事に、頭がうまくついていかなかった。
「…ひめ、ひゃん?」
「大和くんの言った通り」
ぷう、と頬を膨らませて、俺の頬を掴んでいる彼女。
というか、つねられていた。
「…孝介くんは、まわりはよく見えてるけど、自分のことは全然見えてない」
「へ…?」
「気付いてくれてない」
「あ、あの…」
「私のこと、見て」
まっすぐな瞳に射抜かれたように、俺は彼女を見つめた。
言葉のない時間。
見つめあったまま動けない。
「孝介くん」
ふんわりと笑った顔は、いつもの笑顔。
キイタに向けるのとは違う。
俺に向けた笑顔。
…あれ?
もしかして。
ねぇ、その笑顔。
「…孝介くんだけ、特別だよ」
自惚れてもいいの?
(…そろそろかな)
(なになに、何かあんの?)
(何も。とりあえず、あと15分はちょうだい)
(ふぅん?変なの)
(…お母さんに、恩返し…)
end
やっぱりお母さんキャラ。
大和はヒロインの次に孝介が好き。