はまってんな、俺


俺の彼女はものすごく鈍い。

激にぶ、もう本当に。

Gフェスの人たちの彼女を見る目が違うことにだって気付かない。
平気で他の人とふたりで仕事をしたりする。

いくらGフェスの仕事だからといっても、彼氏としては面白くないわけで。


「おい、コピーしに行くぞ」
「は、はい!」
恵人さんの命令はいつものこと。
それに従う彼女もいつものこと。
だけど、学園祭が終わった今、そう簡単にはふたりっきりにはさせられない。

「ストーップ!」

なんだよ、と舌打ちしながら俺を見る恵人さんは、ものすごく不機嫌そうだ。

しかし。
ここで負けてなるものか!

「俺が行きます!」
「はぁ?」
「コピーくらいできますから!」
「いや、でもな…」
「俺、仕事ないんです!だからお願いします!」
「……わかった」

俺の(不純な)熱意ある立候補で恵人さんの魔の手から逃がした彼女を連れて、美術準備室を出た。

あの人たちは、隙あらば彼女とふたりになろうとしてるからタチが悪い。
無害なふりしてる穣だって、この前こっそり弟の練習試合に誘ったりしていた。
それを聞いた俺はもちろん一緒に見に行ったけど。
そのときの穣が一瞬見せた残念そうな顔ったらない。

「キイタくん」

そんな俺の陰ながらの抵抗に気付いてない子がひとり。

「最近、熱心だね」

なんて言う俺の彼女であるのだけれど。

「この前もナツメ先輩の代わりに一緒に書類取りに行ってくれたし、その前は辻先輩の代わりに足りなくなった画材を一緒に買いに行ってくれたし」

それはふたりで行くような雰囲気に流されてたものを、俺が阻止した結果なの!

「ほら、今だって、恵人先輩の代わりにコピーしに行ってくれるし」

嬉しそうに笑う彼女に、俺は曖昧に笑って返す。

別に、代わりにってわけじゃない。
ただ、他の人とふたりになってほしくなくって。
俺は一緒にいたくて、ふたりきりになりたくて。
だから仕事を無理やり受けてるだけで。

きみは、俺の不純かつ自分勝手な動機を聞いてどう思う?

呆れるかな。
笑うかな。

それを聞いても。

嬉しそうに笑ってくれるかな。

「…ちょっと、不謹慎だけど」
「ん?」
印刷室の前で、彼女はふんわりと笑う。

「私はね、キイタくんと一緒に仕事ができて嬉しい」

「…………」

…つくづく、思う。

「キイタくんにとっては、なんでもないことかもしれないけど…」

「…ううん」

「私は、嬉しい」

「…俺も」

つくづく、思わされます。




はまってんな、俺。




(印刷室にふたりっきりだね)
(あ、そ、そうだね)
(どしたの?)
(う、ううん…)
(ふたりっきり、一緒に、は嬉しいんだよね?)
(うん……あれ、近い…?)


end



希太くんは特に敵が多い



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