幸せなら態度で示そうよ


偶然にも高校で再会できた幼馴染み。
偶然にも同じクラスになり、偶然にも同じGフェスのメンバーになった。

そして今は、俺の…彼女。

俺はキイタみたいにあんなに喋れないし、辻先輩みたいにモテるわけじゃない。
恵人先輩みたいに輪の中心になれるタイプでもないし、川野先輩みたいに知的な話ができるわけでもない。
至って普通、だと思う。

俺と付き合ってて、あいつは楽しいんだろうか。


「おじゃましまーす…」
「…おう」
今日は休日。
一緒に宿題をするべく、集まったのは俺の家。
親は月例の町内会の集まりで夜まで帰らないし、弟の徳は相変わらず野球の練習だ。

つまり、ふたりっきりということになる。

「…飲み物、持ってくるから。部屋行ってろ」
「あ、う、うん」
ぎこちない笑顔で返事をするも、彼女は台所までついてきて、後ろから俺の動作をじっと見ていた。
きゅ、と服の裾を掴まれてるのもなんとなくわかる。
「…なぁ」
「な、なに?」
「…なんでも、ない」
別にふたりっきりになることは初めてじゃない。
文化祭準備のときは、よく美術室でふたりになることが多かったし、部屋でふたりになることだって何度かあった。
ただし。

そのときは、絶対にその空間の外に人がいたのだ。

今日は完璧なふたりっきり。
こんなに近くにいられて、緊張しないわけがない。
ましてや服の裾を掴まれて、そんな可愛い顔して、俺はものすごく理性を試されてる気がする。

「…あのね」
「ん?」
「わ、私といて…つまらなくない?」
「……は?」
いきなりの質問に、声が裏返ってしまった。
「あの…私、付き合うとかって初めてで、今まで普通に話せてたのに、緊張しちゃって…うまく話せなくて」
ポツリポツリと俯きながら呟く彼女。
「穣くんに、つまんないって思われてたらどうしようって…」

「…悪い」

ぎゅう、と彼女を抱きしめる。
やっぱり理性を試されていた。
そんなに可愛く言うなんて反則だ。
「み、のるく…」
「…お前こそ、俺と付き合ってて、楽しいのか?」

俺がお前といてつまらないなんて、思うわけない。
一緒にいるだけで嬉しくて。
なんだか奇跡みたいで。
緊張して、うまく話せないときもだいぶあるけれど。
ただ笑ってくれてるだけでいい、なんて思うんだ。

「…楽しい、よ?」
「…そうか?」
「穣くんも、そう思ってたの?」
「…ん」
だって俺は、キイタみたいにあんなに喋れないし、辻先輩みたいにモテるわけじゃない。
恵人先輩みたいに輪の中心になれるタイプでもないし、川野先輩みたいに知的な話ができるわけでもない。
そんな人たちを出し抜いて、彼女とこんな関係になれたこと。

「…奇跡、みたいだなって」
「奇跡?」
「…付き合えた、こと」
真面目に言うと、彼女はふふ、と笑った。
「そうだね、奇跡なのかも」
「…ん?」

「同じ気持ちになれたこと」

ぎゅう、と抱きついてくる。

やっぱり可愛い。
理性なんて吹っ飛びそうだ。

「私、穣くんといるの好き」

ああもう。
やめてくれ。

「でも、あんまり目を合わせてくれなくなると…ちょっと、不安」

も、無理。

「…ひめ」
ちゅ、と髪にキスを落とす。
驚いてこっちを向いた彼女の額に、頬に。
顎を摘んで、可愛い唇にもひとつ。
「み、穣く…?」
とろんとして濡れた瞳。
少し赤らんだ頬。
正面から彼女を見つめる。

「…好き、だ」

「っ、はん、そく」
目をそらそうとする彼女の顔をガッチリ固定する。
「喋るのは、苦手なんだ」
だから、ともう一回キス。




幸せなら態度で示そうよ。




(み、のるく…)
(…ん?)
(そんなに、キス、されたら…宿題、できな…)
(…ごめん)
(穣くんの、そういう優しいとこ、好き)
(…そう、ですか…)


end



穣くんは彼女の全部がツボ。



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