俺が俺じゃなくなる
【恵人先輩からメールが来るなんて嬉しいです。】
じゃあお前からしてくればいいだろう。
そう呟きながら、返信する。
もちろん、今の呟きとは別の内容で。
数分して、ケータイが音楽を奏でる。
あいつ専用の着信メロディ。
この前、俺の着メロは他のやつと違うんだろうな、と(さりげなく)聞いたときに照れながら言った歌手の歌を、そのまま俺もあいつの着信音にした。
女子高生に人気のシンガーソングライターらしい。
美影も聴いてたっけな、と思い出しながら、メールを開いた。
【今日の夜ご飯は、ハンバーグでした。】
ん?
なんだこの文。
咄嗟に自分の送信メールを見ると、【夕飯、なんだった?】と表示されていた。
なんだこれ。
なんで俺こんなこと聞いてんだ?
焦りながらもメールを返し、近くにある雑誌に手を伸ばす。
数分してもあいつからの返信はなかった。
なんだか落ち着かない。
雑誌の内容もなんだかよくわからない。
だけど、あるページで俺は手を止めた。
あるテーマパークに、新しいジェットコースターができるらしい。
パレードも様子が変わると大々的に宣伝している。
あいつはジェットコースターより、こっちのパレードの方が好きそうだよな…
って、なんであいつが出てくんだ?
…メール返ってこねぇな…
何かまた変なこと言ってたりとか。
あれ、なんて送ったっけ。
送信メールを確認しようとしたら、あいつの着信音が鳴った。
なぜか頬が緩む。
遅いんだよ、と呟きながら、メールを開いた。
【すみません、お風呂に入ってました。今日の授業は英語と数学と美術と社会と化学です。】
そうか、風呂に入ってたのか。
というより、またこいつはどうでもいいことを…
そう思いながらも不安になり、自分の送信メールを見た。
【ふぅん。お前今日は何の授業があったんだ?】
アンビリーバブル。
つい英語が出てきてしまうくらいに、自分に驚いた。
なんでこんなくだらないこと…
それにあいつも真面目に答えてるし。
なんなんだよ、まったく。
平静を装い、素早くメールを打つ。
またケータイをベッドの上に放り、雑誌に目を戻した。
おかしいぞ、なんなんだ。
なんで俺はあんなこと聞いてんだよ。
俺にまったく関係ねーじゃん。
…あいつと付き合ってから、おかしくなってる気がする。
なんでだ。
何がいけない。
顎に手をあて、本気で悩もうとし始めたときに、着信音が鳴った。
【はい(*´ω`*)】
…は?
なんの答えだ?
俺はなんて送ったんだ?
ついさっきのことなのに、まったく思い出せない。
(しかし、不覚にも顔文字にときめいた)
恐る恐る送信メールを開く。
気づくと俺は、携帯を耳に当てていた。
俺が俺じゃなくなる。
(け、恵人先輩!?)
(お前今の、やり直しだ)
(やり直し?)
(…俺のこと、好きか?)
(……はい)
end
恵人くんはツンかわいい。