ありがとう


学校から帰ってくると、待っていたのは満面の笑みを浮かべた月子。

それと、「おめでとう」の言葉だった。


昔よりもかなり上達した料理が並んだテーブルを見て、自然と笑みが零れる。
俺の好物ばっかりで、俺のために用意してくれたんだと思うと嬉しい。

夏休みだから授業があるわけでもなく、ましてや俺の誕生日なんてのをみんなが知ってるわけもなく。
「おめでとう」と2番目に言ってくれたのは、琥太郎先生と水嶋だった。
1番目は、もちろん月子。
12時ぴったり、俺の誕生日になった瞬間に「おめでとうございます」と優しいキスをくれた。
最初のプレゼントも、月子がくれたのだ。

それに加えてのこの料理。
嬉しくてたまらない。

笑顔で囲む食卓に、笑顔で交わす会話。
一緒に後片付けをしながら「幸せだ」と呟くと、月子は本当に嬉しそうに笑ってくれた。



明日の準備を終え、幸せな気分で眠りにつこうと目を閉じたそのとき、俺の携帯が着信を知らせる。
11時59分。
こんな時間にと不思議に思いつつフォルダを見れば、そこに表示されたのは、5件の未読メッセージ。


『おめでとー、直ちゃん!直ちゃんの誕生日の最後の1分を飾るのは俺たちだ!』

『おめでとなー、直獅!!ちゃんと祝ってもらったかー?』

『直ちゃんセンセ、おめでと〜!邪魔しちゃってたらごめんね〜!』

『おめでとうございます、陽日先生。遅くまで起きてると、身長伸びませんよ?』

『直獅センセ、おめでとー!!俺また背伸びちゃったよー!』


差出人は、元生徒である賑やかし5人組。
若干悪意があるんだかないんだかわからない内容の奴もいるが、一応お祝いメールらしい。

思わず頬を緩ませると、隣にいた月子は、「どうしたの?」と言いたげな顔をしていた。
何も言わずにメールを見せてやると、月子も嬉しそうに笑う。
「変わらないですね、みんな」
「ああ。…すごい嬉しい」
何年経っても変わらない、心優しい俺の生徒たち。
1人ずつにお礼の返事を送り、携帯をベッドのサイドボードに戻す。
いつの間にか、俺の誕生日は終わっていた。


「もう寝よう。んー、今年もいい誕生日だった!」
「本当ですか?」
「もちろん!最後のあいつらからのメールも嬉しかったし、何より、月子が一緒に祝ってくれたからな」
「ふふ、嬉しい」
見つめ合い、自然とキスを交わす。
お互い、顔を赤くするのは変わらない。
けど、前よりは、確実に前進している。

薬指にある誓いのリング。
同じ苗字。
新しい絆。

「…嬉しいのは、俺だって」

そう言葉を返して、俺はもう一度月子にキスをした。


誰かが『長期休暇中に誕生日があるのは嫌だ』と言ってるのを聞いたことがある。
そうかもな、と納得はできたが、同意はできなかった。

俺を知っている人みんなに祝ってほしいわけじゃないんだ。
ただ、俺をこうして支えてくれて、愛してくれて、見守ってくれてる人たちが祝ってくれるということが、最上の幸せだと俺は思う。


大切な人が増えていく。
大切なものが増えていく。
だけどそれは、怖いことでもなんでもない。

無くしたくなければ守ればいい。
それができるだけの強さを、俺はもらった。


無くしたくなければ、

この手から零れないように。


「…月子」

嬉しくて、幸せで。
強さをくれた月子に。
この気持ちを、ちゃんと伝えたいのに。

「月子」
「はい」

ごめんな。

この一言しか、浮かんでこないんだ。




ありがとう。




(…直獅さん)
(ん?)
(来年は、3人でお祝いできるかもしれません)
(……も、しかして…)
(はい…家族、3人)
(…これ以上俺を幸せにしてどうするんだ!)


end



誕生日おめでとう!
AfterAutumnびっくりしたよ!



20110811






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テーマ「人外ファンタジー」
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