待てなくて土曜日



「……それで?」

「今日はお弁当を忘れたからって…学食に」
戻られました、と小さく答えると、目の前に座る美影の表情が一気に恐いものになった。
「なにそれ!せっかくひめが会いに行ったっていうのに!」
ダンと勢いよくテーブルに置かれたドリンクのカップは、美影の握力で少し凹んでいる。
「どうしようって何!?なんなのあの人!」
「お、落ち着いて、美影…」
「むしろどうして落ち着いていられるのよ!当の本人が!」
怒りを露にしてくれるかつての同級生、もとい親友の美影の様子に、宥めながらも緩む頬は隠せない。
お互い違う大学へ進学しても、こうして会って話を聞いてくれることが嬉しい。
「…なんで笑ってるのよ」
「美影に会えて、嬉しくて」
そう言うと、美影は仕方ないなとでも言いたげに表情を緩めた。



清嘉学院の最寄り駅。
駅前のファーストフード店。
ちらほらと店内で見かける懐かしい制服に、自然と笑みが零れる。
そんな私を見て、あんまり落ち込んでなさそうね、と意外そうに言う美影の言葉に、私は小さく頷いた。

確かに昨日、一緒にお昼を食べることもなく、直江先輩は学食に戻っていった。
だけど、私の気分は落ち込むどころか落ち着かなくて、「どうしよう」の言葉の意味なんて考えられず、むしろ美影をわざわざ呼び出してしまうくらいに動転していたのだ。



『…月曜日は、お弁当を持ってきますから』

小さく呟いた直江先輩の言葉が、今も頭の中でぐるぐると回っている。
思わず「はい」と答えてしまったけれど、あれはどういう意味で───


「“一緒に食べましょう”でしょ」
きっぱりと美影は言った。
「また月曜日にそこでってことなんじゃないの?なんだ、誘われてるんじゃない」
「そ、そうなのかな…?」
自信満々に言い放つ美影の言葉に、だんだんと口元が緩んでくる。
にやにやと笑う美影に見つめられ恥ずかしくなり、咄嗟にストローを口にくわえた。
「嬉しそうだけど?」
「…別に」
「別にって顔じゃないよ」
まったく、と笑い、そしてふいに真剣な顔をして、美影は続ける。


「それにしても、どうしてあの人なの?」
「え?」
「あんまり詳しく知らないけど、結構酷いことしてたんでしょ?学園祭だけじゃなくて、他のイベントでも」
「うん…」
そうなんだけど、と言葉を濁し、当時のことを思い出す。


確かに酷いこともたくさんされた。
イベントの妨害なんて普通だったし、それがあらぬ方向に走って、大変なことになったときだってあった。
そのたびに直江先輩も痛い目に遭ったっていうのに…
「…懲りない人だったなぁ」
「え?」
「ううん」
なんでもない、と言いつつ、自分の頬が緩むのがわかる。


ひねくれてるけど真っ直ぐで、不器用だけど優しい人。

いつからだろう、と改めて考えてみる。

そんな直江先輩が、私の中で───




「相席いい?」
「は、葉月!」

懐かしい声と一緒に聞こえてきたのは、今まさに思い浮かべていた人のもの。
「え……」
私たちのテーブルにトレーを置きながら美影の隣に座ったのは、少し大人びた雰囲気に変わった葉月先輩。
隣に立つ人の気配に、私はゆっくりと振り向く。


「……あ」
「…こんにちは」
気まずそうに視線をそらし、その場に立ったまま呟いたのは、やっぱり紛れもない直江先輩だった。
「京一」
「………」
にっこりと促すように直江先輩の名前を呼ぶ葉月先輩。
うるさい鼓動を押さえるように、無意識に胸に手を当てる。

「…隣、いいですか」
「……は、い」

向かいに座る2人分のにやにやとした笑みに向ける神経なんてものはなく、熱くなった自分の頬にも、私は気づかないふりをした。





たぶん、きっともうすぐだと思う。

私の気持ちに、答えが出るのは。





To be continued...

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