会いたい人


会いたい人がいます。



学食で会ったあの日から、私は気付くと直江先輩を探している。
教室を移動しているときや、昼休みの食堂で、私の視線はきょろきょろと彷徨っていた。

見つけたらどうしようとか、やっぱり私は『その先』を考えてはいなかったけれど。



「あ、直江くんの後輩ちゃん」
ざわざわと賑やかな食堂。
食券と引き換えの定食をカウンターで待っていると、隣からぽつりと聞こえてきた。
探していた人の名前が聞こえ、反射的に振り向く。
「…?」
知っていたのは声に出された名前だけで、隣に立つ彼を私は全く知らなかった。
「………」
「…え、もしかして覚えてない?」
「は、はい…?」
どこかで会っただろうかと記憶の中を探ってみても、彼の情報は何もない。

「直江くんしか視界に入ってなかったんだね、きっと」
はーぁ、と彼はわざとらしく大きなため息を漏らした。
「2人の初対面のとき、直江くんの隣にいたんだよ、俺」
「えっ」
そう言われて思い浮かぶのは、あの日、学食で直江先輩と再会した日のこと。
私が話しかけたときに聞こえた驚いたような呟きは、直江先輩から聞こえたものではなかったような。
あれは直江先輩の隣から聞こえてたんだと、今さらになって気づいた。

「……あ」
「思い出してくれた?」
「な、なんとなくですけど…」
すみません、と謝ると、目の前の先輩はいいよいいよと笑顔で返してくれた。
誰かに雰囲気が似てる、とふいに思ったけれど、カウンターの向こう側から差し出された料理に、一旦会話が中断される。


備え付けの箸を取り、サラダにドレッシングをかけていると、隣に立っていた先輩はぽつりと言った。
「直江くんのこと、探してる?」
「え…」
「直江くんお弁当男子だから、お昼は俺たちと一緒じゃないんだよね」
先輩の視線を辿ると、こちらに向かって手を振っている3人の学生。
そこに直江先輩の姿はない。
「学食のメニューを食べないんだから、混んでる食堂の席に座るのは申し訳ないってさ。直江くんらしいというかなんというか」
困ったように苦笑いを浮かべる先輩の言葉に、私も小さく笑みを返す。

この人が、直江先輩の友達。
やっぱり誰かに似てる…?

「あ、直江くん、いつも管理棟の裏にあるベンチで食べてるって言ってたよ」
「え?」
「じゃ、またね」
ひらひらと片手を振り、先輩は背を向けて行ってしまった。


さっきの先輩の言葉を頭の中で繰り返しながら、友達の待つテーブルへと戻る。

名前も知らない、直江先輩の友達であるらしい先輩。
どうして直江先輩のことを教えてくれたのか、それ以前に彼の言葉を信じていいものなのか、浮かぶ疑問に答えなんてない。



本当は、こわかった。

探しに行けば、会えないことなんてない。
でも、会うのがこわい。

私の知らない1年間は、きっと良くも悪くも直江先輩を変えてしまっただろう。
それがいい変化だったなら、以前を思い出す私の存在は、邪魔なだけかもしれない。


そう、思うのに。

溢れてくるこの気持ちをもう抑えられない。



…直江先輩に会いたい。



1回で、いいから。

心の中で呟きながら、プレートに箸を置き、目の前に座る友達2人に向かって姿勢を正す。

「…私、明日はお弁当にする」



会えたら何を話そう。

私はこのとき、やっと『その先』を考え始めたのだった。





To be continued...

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