彼女がくれたもの


あの日、学食で彼女に出会ってから、僕には大きな変化が起こっていた。



「直江くーん、先週の授業なんだけどさー」
「あ!私も聞きたいことあったんだ!」
「レポートっていつまでだっけ、直江くん」
「直江くん直江くん、お菓子食べる?」

僕が教室に入った途端、彼らは待ってましたと言うかのように、矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。
最後にお菓子の件を口にした相田くんがよく一緒にいる彼を含めた4人組のグループに、僕は知らぬ間に巻き込まれていたのだ。

「レポートは今週の授業が休講になるので来週に提出です。あと、お菓子はいりません」
「ちょ、先週の授業の話は!?」
「スルーされた!」
「…あなたたちは、まずノートを照らし合わせましょう」

隣に座った井上くんと、前の席からこちらに体ごと向けてきている宇野さんの前に、2人がご所望のノートを広げる。
僕のノートを食い入るように見つめ、足りない箇所を書き足していく2人の姿を横目に、僕は2限の授業の準備を始めた。



───そもそもどうしてこんな状態になっているのかと言えば、あの日、彼女に会ったことが起因になっているんだろう。

学食で彼女に会ったあと、次の授業が同じだからと相田くんと一緒に教室へと向かった。
入学して1年が経っても、同じフレッシュマンのときのクラスの人とも授業でしか話していなかった、常に1人でいた僕が相田くんと共に教室に入ってきたとなれば、教室にいる学生の視線を集めるのは当然のことだったのかもしれない。

相田くんはそんな視線にたじろいでいた僕の肩に手を置き、一際ぽかんとしたような表情をしている3人組に、片手を挙げながら近づいていく。

「直江くんと友達になっちゃったー」
「は…!?」
さらりとそう言ってのけた相田くんに、僕は思わず反応してしまった。
「い、いつからそんなことに!」
「さっき恋バナしたじゃん」
「してません!」
「顔真っ赤だよ、直江くん」
「そ、そんなことありません!」

にやにやとからかうような笑みに、いつかの葉月の笑顔が重なる。



『京一は変わったね』

あの子のおかげかな、と卒業式の日、葉月はそう言って笑った。
そんなことありません、と必死に言い返す僕を笑う口元はからかうように歪められ、それでも細められた目は優しいものだったのを覚えている。



「あ、直江くんの後輩ちゃん」
「えっ」
「に、似てる子がいる」
反射的に上げてしまった視線の先には、したり顔をした相田くん。
「…騙しましたね」
「最後まで聞かないからだよ」
「不自然なところで止めたのは相田くんでしょう!」
「細かいなぁ、直江くんは」
ニッと相田くんは笑う。
口元を、軽く歪めて。
優しげに目元は緩んでいた。

どこまでも相田くんは葉月に似ている。
それが僕を少し苛立たせ、安心させた。



「直江くんって、もっとクールな印象だったな」
「俺も。顔赤くして怒鳴るとか、絶対しないと思ってた」
僕のノートから必要な部分を書き写し終えたのか、宇野さんと井上くんは、しみじみとした口調で言った。
「ここまで来ると、独りが好きなのかと思ってたよね」
と、レポートの締切日を手帳に書き込んでいた遠藤さんも、彼らに続く。

「まさか彼女までいるとはねー」
「だからそれは違うと…!」
「はいはい、可愛い後輩ちゃんだったね」
「う、うるさいですよ!」


独りの日々も悪くなかった。
ただ、独りじゃない、騒がしい今の日々も、なんだか楽しいと思っている僕がいる。

相田くんが誰かさんに似ているから、ということもあるかもしれないけど。



学校は、勉強するためだけの場ではない。
心の中では認めていても、口には出すことができなかった想い。


それを彼女に伝えられる日は来るだろうか。




大学に入学して、1年と1ヶ月。

彼女のせいか、彼女のおかげか。

僕に友達ができたらしい。




To be continued...

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